ウクライナがズミイヌイ島(スネーク島)をロシアから奪還するまでの時系列

ウクライナがズミイヌイ島(スネーク島)をロシアから奪還するまでの経緯

ウクライナのイェルマーク大統領府長官は30日、ロシア軍が黒海の戦略的要衝であるズミイヌイ島(英語:スネーク島)から撤退したと明らかにしました。ロシア軍は島からの撤退理由をウクライナの農産物を輸出するための国連の取り組みをロシアが妨げていないという「誠意を見せた」と表明していますが、これはおそらく負け惜しみでしょう。ロシア海軍が旗艦モスクワを失ってから、同島を巡る攻防は激化しており、孤島でウクライナ本土に近いこの島はウクライナ本土から砲撃、ミサイル攻撃にさらされ、それに耐えられなくなったのが撤退理由と、ウクライナ側は主張しています。ロシア軍が撤退したことでウクライナが事実上、同島を奪還したことになります。

ここでこれまでのズミイヌイ島を巡る攻防について時系列で振り返りたいと思います。

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2月24日

ロシアによるウクライナ侵攻が始まったこの日。黒海の孤島であるズミイヌイ島はロシア海軍黒海艦隊旗艦モスクワと哨戒艦ヴァシリーバイコフの侵攻をうけます。同島を守る兵士はウクライナ国境警備隊の僅か13人のみ。モスクワは警備隊に対し、降伏するよう勧告。しかし、兵士はこれを拒否、「消え失せろ」と回答しました。これを受けてロシア軍は同島への攻撃、上陸を開始。同日夜に島はロシア軍によって完全に占領されます。この時、警備隊は全滅したと思われましたが、実は生きており、ロシア軍の捕虜となります。

3月29日

ロシア海軍に「Go fu*k」と言って全滅したとされたスネーク島の国境警備隊員が戻り勲章が授与されました
mod ukraine

ウクライナ国防省は3月29日、降伏を拒否し、ロシア軍艦に向かって「消え失せろ!」と発言したロマン・フリボフ氏が、捕虜交換の末、ロシアの監禁から解放され、故郷のチェルカスイ地域に帰還したと発表しました。彼にはその勇気と功績を称えメダルが授与されます。

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ロシア海軍に「Go fu*k」と言って全滅したとされたスネーク島の国境警備隊員が戻り勲章が授与されました
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4月14日

黒海の広域防空任務を担っていた、ロシア海軍の旗艦である巡洋艦モスクワがウクライナ軍の対艦ミサイル「ネプチューン」によって撃沈されます。旗艦モスクワを失ったこと、ウクライナ軍の対艦ミサイルによって撃沈されたという事実は黒海艦隊に物理的・精神的に大きなダメージをあたえました。広域防空艦を失ったことで艦隊の行動は制限され、黒海におけるロシア海軍の圧倒的優位性が崩れ、ウクライナ軍は4月末より島への攻撃を開始します。

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ロシア黒海艦隊の旗艦モスクワを沈めたウクライナ国産対艦ミサイル「ネプチューン」

5月

5月に入るとウクライナ軍はズミイヌイ島奪還に向けた本格的な反攻を開始。5月6日には島にある防空システムのTorミサイルシステム9A330/9A331を攻撃ドローンの「バイラクタルTB2」によって攻撃によって破壊し、島の防空システムを無力化します。すると今度はSu-27戦闘機といった有人航空機による空爆を実施。これらの空からの攻撃は黒海の防空を担っていた巡洋艦モスクワが生きていれば難しかった作戦です。更に島にあった、セルナ級揚陸艇、付近を航行するラプター哨戒艇といった船をバイラクタルTB2の攻撃によって破壊するなど、島への海上補給線を分断します。

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船を失ったロシア軍部隊は今度は空からMi-Mi-8ヘリで島に上陸しようとしますが、これもせん滅するなど、ウクライナ軍は攻撃を激化させます。この時、島の奪還はもうすぐと思われましたが、奪還には至りませんでした。この数日に及ぶ攻防でロシア軍はウクライナ軍の30機のドローン、3機のスホーイ24攻撃機、1機のスホーイ27戦闘機、3隻の装甲水陸両用強襲揚陸艇、10機のヘリコプターを迎撃、50人以上の兵士を殺害したと発表するなど、ロシア側の反撃も激しかったようです。ロシア軍は一旦、ウクライナ軍を退けたことで、島の防衛を強化、対空兵器、ロケットランチャーといった15の兵器ユニットを新たに配備しました。

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ウクライナ軍とロシア軍のスネーク島を巡る攻防が激化

6月初め

ウクライナは5月末にデンマークから対艦ミサイルの「ハープーン」を受領。そして6月の初めには沿岸部への配備を開始。これにより、沿岸分の防備がより強固になります。ハープーンの射程距離は124km、それに対し、ウクライナ本土から島までの直線距離が一番短いところで48kmしかなく、島を射程内に捉えたハープーンは早速、成果をあげます。17日には島に補給物資を届けようとしたロシア海軍のタグボートを2発のハープーンで撃沈。タグボートには対空兵器を搭載していたそうですが、ハープーンを迎撃することはできませんでした。ハープーンの配備により、ロシア海軍の船はこれまで以上に島に近づけなくなり、ズミイヌイ島にいるロシア兵は徐々に孤立していきます。

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ウクライナがとうとうハープーン対艦ミサイルを沿岸部に配備
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6月末

ウクライナ国防省は6月25日、アメリカから提供された高機動ロケット砲システム(HIMARS)を実戦に投入したと発表します。HIMARSは最大300kmの射程を持つ戦術ミサイルを発射できますが、ロシア領内へ攻撃可能な武器は提供しないとして、射程80kmのロケット弾のみの提供に限定されています。ですが、80kmという射程はウクライナ本土からズミイヌイ島を攻撃する上では十分であり、数日後にはHIMARSによって、島を攻撃、島にあったロシア軍の最新鋭防空システムパーンツィリ-S1 を破壊します。

更に、ウクライナ国産の155ミリ自走榴弾砲である2S22 Bohdanaを使って島を攻撃。Bohdanaの最大射程はロケット推進弾使用で最大50km、島まで本土から一番近い所で直線48kmなのでギリギリ射程内に収まります。HIMARSのロケット弾とBohdanaの砲撃による激しい攻撃で島にいるロシア軍は消耗。船舶も容易に近づけず、兵站は滞り、島に残るロシア軍は孤立します。

6月30日

ロシア軍はズミイヌイ島から完全に撤退。ウクライナは侵攻初日に失った同島を4カ月ぶりに奪還します。これにより、ウクライナは同島に対艦ミサイルの設置が可能になり、ロシア海軍・黒海艦隊の行動範囲はさらに限定的になります。

これでオデーサを含めた西部の沿岸部の安全はある程度確保できることになりますが、これでオデーサから海上での穀物輸送が可能になるかというと、そういうわけではありません。水中にはまだ黒海艦隊のキロ級潜水艦が控えており、これに対抗できる兵器を現状、ウクライナは持ち合わせていないため、魚雷攻撃を受ける危険性が残っています。

しかし、島に最大射程280kmのネプチューン対艦ミサイルを配置することで、クリミア半島の黒海艦隊の司令部があるセヴァストポリを狙うことが可能になり、潜水艦基地を攻撃するといったことができるかもしれません。

ウクライナがズミイヌイ島を奪還したことで、今後の戦局にどういった影響を与えていくのかが注目されます。

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