
イスラエルが米国の仲介のもと、ウクライナにパトリオット防空ミサイル90発を供与した事が分かった。イスラエルによるウクライナへの軍事支援・兵器供与が確認されたのは初だ。
AXIOSの28日の報道によれば、米国防当局者の情報として、今週、イスラエルに保管されていた約90発のパトリオットミサイルがアメリカによってポーランドに移送され、その後、ウクライナに引き渡された。ホワイトハウスからの公式発表はなく、この報道について米国防省の報道官は「我々は報告書を見たが、現時点では何も提供できない」と述べており、否定も肯定もしていない。この件についてはCNNやロイターも報じており、イスラエルからパトリオットミサイルがウクライナに渡ったのは事実だろう。
イスラエルの報道官は米国にパトリオットミサイルを「返却した」ことを発表しており、その上で「ウクライナに届けられたかどうかは不明だ」と述べ、その先は知らない、関与していないという態度を示している。イスラエルはロシアとの関係を考慮し、ウクライナに対し、軍事支援を行っておらず、あやふやにする事でロシアを刺激しない配慮が伺える。パトリオットミサイルの供与はおそらく、形式上はイスラエルからウクライナではなく、一度、アメリカに所有権を移し、あくまでアメリカがウクライナに供与したという枠組みになっていると思われる。なので、イスラエルの報道官は「パトリオットシステムを米国に返還しただけだ」と強調している。
イスラエルで全退役したパトリオットミサイル

パトリオットミサイル(MIM-104 Patriot)は航空機、弾道ミサイルを撃墜する能力を持つ防空ミサイルシステムで世界18か国で配備されるなど、世界で最も優れ、先進的なミサイル防衛システムの一つだ。ウクライナではロシアのミサイル攻撃に対し、90%を超える迎撃率を達成。ロシアが誇る極超音速ミサイル「キンジャール」の迎撃にも成功している。そんなパトリオットだが、イスラエルでは既にお払い箱となっており、2024年中に全て退役している。イスラエルは1991年の湾岸戦争で米軍のパトリオットミサイルがイラクからイスラエルに向けて発射された一部のスカッドミサイルの迎撃に成功した事で同年、配備を始めた。その後は出番がほとんどなかったが2014年8月に、ハマスの無人航空機2機を撃墜。これがイスラエルのパトリオットの初の戦果となった。2014年9月にはゴラン高原の空域に侵入したシリア空軍のSu-24を撃墜し、システムの信頼性を示す。イスラエルには米国とドイツから各4基、計8基のパトリオットPAC-2が配備されていたが、周辺国との紛争が絶えない同国において、これまでイスラエルのパトリオットが迎撃した有効標的は10個弱にすぎない。というのも、その間、イスラエルは独自に長距離防空ミサイルの「Arrow」、中長距離の「David’s Sling」、短距離の「Iron Dome」と防空ミサイルシステムを開発。近年、パトリオットの出番はほぼなくなっており、防空システムのリソースを全て国産システムに移行するため、2024年にパトリオットの全廃止を決定した。
これに目を付けたのはウクライナのゼレンスキー大統領であり、お役御免となったパトリオットの供与をイスラエルに要請するため、ネタニヤフ首相との協議を望んでいたが、ロシア・プーチン大統領と親交が深いネタニヤフ氏はこれを避けていたとイスラエルメディアは報じている。しかし、有名なラビが埋葬されているウクライナの都市ウマニへのイスラエルの超正統派ユダヤ教徒による毎年の巡礼の承認を得るためゼレンスキー大統領と協議しなくてはならず、会談に応じ、昨年9月下旬にはネタニヤフ首相はパトリオット供与の案を承認していたと報じられている。
昨年12月にはロシアが支援する隣国シリアのアサド政権が崩壊。同国に駐留する親イラン武装組織の対応でロシアとの関係維持が必要不可欠だったが、ロシア軍、イラン勢力は撤退し、ロシアに配慮する必要はなくなった。それもあってか、今年1月にはイスラエルのシャレン・ハスケル外務次官がウクライナ大使との会談でレバノンのヒズボラから押収したロシア製兵器の供与を打診している。周辺国との紛争が絶えないイスラエルなので先進的な兵器の供与は難しいが、パトリオットのように倉庫に眠る兵器の供与は可能と思われ、今後、ウクライナへ軍事支援が活発化するかもしれない。