ロシアがドイツの軍需大手企業であるラインメタル社のアーミン・パッパーガー最高経営責任者の暗殺を計画している事が分かった。ラインメタル社はロシアによるウクライナ侵攻が始まって直ぐにウクライナへの兵器支援を申し出るなど、ドイツの軍事支援を先導していると言ってもよい企業だ。
CNNの報道によれば、米国と西側諸国の当局者5人の情報源のもと、 米国の諜報機関は今年初め、ロシア政府がウクライナ向けに砲弾や軍用車両を生産してきたドイツの軍需企業ラインメタル社のアーミン・パッパーガー最高経営責任者(CEO)の暗殺を計画していたことを突き止めた。既に米諜報機関はこの情報をドイツ政府に提供しており、CEOはドイツ治安部隊の保護下にあり、暗殺計画は今の所、阻止されている。ドイツ政府高官は、米国から暗殺計画について警告を受けていたことを認めている。この計画は、ウクライナに軍事支援してきた欧州の軍需企業幹部を暗殺するというロシアの一連の計画のうちの一つに過ぎないとされている。今のところ、欧州軍需企業社員が不審死したとの情報はない。
ラインメタル社は欧州随一の軍需企業で戦車、榴弾砲の主砲生産に関しては世界トップシェアを誇る。ラインメタルはウクライナへの軍事支援にも積極的であり、ロシアが2022年2月末にウクライナに侵攻すると直ぐにドイツ政府に対し、ドイツ国防省からソ連製のBMP歩兵戦闘車用の弾薬400万発を購入する打診を3月下旬に行っている。東ドイツ軍にBMP歩兵戦闘車を配備していた関係もあり、ドイツ連邦軍にはまだ大量の在庫があった。また、同社が開発生産したマルダー歩兵戦闘車両35両をウクライナに輸送する計画を提案した。マルダーは後継のプーマ装甲歩兵戦闘車に更新が始まっており、退役した車両が倉庫に眠っていた。しかも、退役してそれほど時間も経っていないため、整備後直ぐに提供できる状態にあった。しかし、これは最初、ウクライナの軍事支援に及び腰だったショルツ政権によって拒否されている。ショルツ政権はロシアによる侵攻当初、ロシアにエネルギー資源を依存していたため軍事支援には消極的だった。それに対し、ドイツの軍需企業は積極的で、同じくドイツの軍需大手KMWは早くからウクライナへの軍事支援を提言、倉庫に眠っていた大量のゲパルト対空自走砲、そして、まだ現役バリバリで、世界最強の自走砲とも称されるPzh2000 155mm自走榴弾砲の供与をドイツ政府に提言していた。今、これらの兵器は全てウクライナに供与されているが、これら軍需企業の働きかけが寄与として言ってもよいだろう。
ラインメタル社は今ではウクライナの軍需企業と合併会社を創設し、ウクライナ国内に兵器・砲弾の生産工場、修理施設の建設を進めている。また、今年に入り、ウクライナの軍事支援を含めた1兆円規模の155mm砲弾生産の契約をドイツ国防省から受注。ドイツ及び、周辺国に新たな工場も建設中でドイツは今ではウクライナへの砲弾供給を支える重要なサプライヤーだ。これらはアーミン・パッパーガーCEOによるトップダウンの決定があってこそだった。もし、CEOが亡くなる事があれば、ラインメタルのウクライナ支援が停滞する可能性がある。
ロシアが仕掛けるハイブリット戦
今年5月にはベルリン南西部にある防衛機器メーカーDiehl(ディール)社の子会社Diehl Metallの金属工場で火災が発生する事故が起きたが、NATOの諜報機関がロシアの関与を示す通信を傍受し、ドイツ当局に渡したと報じている。ディール・メタルはドイツがウクライナに供与しているミサイル防空システムIRIS-Tを製造しており、これを妨害するために、同工場が狙われたと見られている。今月11日には、オーストリア国防軍の女性兵士とその夫がロシアのスパイ容疑で逮捕されている。この夫婦は共にロシア生まれではあるが、オーストラリア国籍でロシアに政府に提供するためにオーストラリア軍の情報を入手していた。女性兵士は軍の情報技術者だった。ロシアはこれら海外でのテロやスパイ活動にあとあと関与を否定するためか本国の要員を派遣せず、親ロシア派、ロシアにルーツを持つ者に金銭的報酬を与え、実行させるハイブリット戦争を仕掛けている。