防衛省は9月23日月曜、ロシア軍のIl-38哨戒機1機が同日午後1時ごろ、3度にわたり、北海道・礼文島北側の日本領空を侵犯、航空自衛隊の戦闘機が緊急発進し、対応したと発表しました。その際、自衛隊機は警告として初めてフレアを使用しました。
ロシア軍のIl-38哨戒機の領空侵入に対し、自衛隊は航空自衛隊北部航空方面隊のF-15とF-35A戦闘機をスクランブル発進させました。Il-38は午後1時から3時にかけて、日本の領空に侵入しました。自衛隊機は再三無線で退去するよう警告を発するも、それに応じず、最初の侵入時は13時3分からの1分間、2回目は15時31分からの30秒間、3回目が15時42分からの1分間と三度もの侵入を繰り返したため、航空自衛隊はより強い警告として領空侵犯対応としては初めてフレアを放出しました。
領空侵犯は重大な主権侵害行為であり、領空侵犯機を着陸、または上空から退去させるための必要な措置として、自衛隊は正当防衛または緊急避難の要件を満たす場合、武器の使用ができると防衛白書に記しています。つまり、撃墜も辞さないことを明示しているわけです。ただ、領空侵犯したからといって、いきなり撃墜するわけではなく、まずは侵犯機に対し、領空から退去するよう警告、または着陸指示を行います。それにも従わない場合は警告射撃を行いますが、その前段階として、今回、空自は初めてフレアを射出しました。もし、これでも退去しなかった場合は警告射撃に踏み切っていたかもしれません。
ロシアは2019年6月にもTu-95長距離戦略爆撃機2機にて沖縄県南大東島の領海上空を、さらにそのうちの1機が東京都八丈島の領海上空を侵犯していますが、この時は警告で終わっています。先月、8月26日には、中国人民解放軍のY-9情報収集機が、長崎県男女群島沖の領海上空を侵犯、この時も警告で終わっています。これらと比較すると今回のフレア射出はワングレード上がった対応と言う事が分かります。ちなみに空自は冷戦下の1987年にソ連機が領空を侵犯した際、F-4戦闘機が、自衛隊史上初となる20mm機関砲による警告射撃を行っています。
フレアとは
フレアとは軍用機が熱探知する赤外線誘導ミサイルに狙われた時に高温に熱したマグネシウムや金属をデコイとして機体から射出するもので、ミサイルを惑わせて回避する防御兵器です。つまり、攻撃兵器ではありません。しかし、これはしばしば、敵対機の前にフレアを射出することで警告、威嚇としても使用されます。昨年、9月にはアメリカ空軍のF-16がアラスカ州アンカレッジ付近の飛行禁止空域を飛行する小型機に警告としてフレアを放出しています。嫌がらせとしても使用されており、今年、8月にはフィリピンと南沙諸島の領有で争う中国の戦闘機が定期海上哨戒中のフィリピン空軍機の進路に向け、フレアを撒く嫌がらせを行っています。歓迎、パフォーマンスに使用される事もあり、台湾空軍はパリオリンピックを終え、帰国する選手団の航空機をF-16で出迎え、歓迎と祝福の意を込めてフレアを射出しています。メディアによっては今回の空自のフレア射出を警告射撃として伝えているところもありますが、使用用途は警告ではありましたが、説明したようにフレアは本来、防御用途で攻撃、敵を狙う能力はなく射撃ではありません。射撃は攻撃行為です。
❗️✈️🇷🇺 – Eight anti-submarine aircraft Tu-142, Il-38 and Il-38N of the naval aviation of the Russian Pacific Fleet conducted a group search and escort of fake enemy submarines during the large-scale exercises of the Russian Navy "Ocean-2024". pic.twitter.com/8px16GNCAk
— 🔥🗞The Informant (@theinformant_x) September 13, 2024
また、フレアを射出したことから、自衛隊機がロックオンされていたとの声もありますが、今回、確認されたIl-38は1960年代に開発された哨戒機で主に監視、捜索救助、海上偵察、対潜水艦戦が任務です。魚雷、爆雷等は搭載していても、空対空ミサイルは搭載していません。今回、機体腹部のウェポンベイが開いていた事が防衛省が発表した画像で確認できますが、対潜水艦戦や音響調査を行うソノブイを投下していたと推測され、海自の潜水艦を探っていた可能性があります。Il-38には対潜用に機内にホーミング魚雷、爆雷、機雷を搭載。また、翼下にINS・アクティブレーダー誘導のKh-35対艦ミサイルを装備できます。R-73M2短距離空対空ミサイルを搭載できるというスペック情報は確認できましたが、射程30kmの短距離ミサイルを哨戒機が運用するのは現実的ではありません。
そもそもレーダーは海上探査を主としており、センサースイートは320kmの距離にある海上目標を検出し、同時に最大32個の目標を追跡できるのに対し、空中の探知距離は最大90kmです。現代の戦闘機よりも検知距離は短く、先に検知され、撃墜されます。おそらく、空対空ミサイルの搭載の話は冷戦下での話で、現代は搭載していないと思われます。
ロシアは今年6月にSu-24戦闘爆撃機でスウェーデン領空に侵入するなど、周辺の敵対国に対して挑発的な行動を繰り返しており、今後も領空侵犯は繰り返される可能性があります。