トルコは今年1月、アメリカと79機のF-16戦闘機のバージョンアップに合意していたが、それをキャンセルして、40機のF-35の購入を要求しているとされる。また、トルコへのユーロファイター・タイフーンの売却を渋っていたドイツがここに来て承認するなど、トルコの次期戦闘機を巡る駆け引きが活発化している。
自国技術でF-16をアップグレード
トルコは今年1月にスウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟を承認する文書にようやく署名したことを受け、アメリカと交渉していた40機のF-16 Block70の購入と79機の既存のF-16をBlock70にアップグレードする総額230億の契約に大筋合意していた。しかし、トルコは後者のアップグレードの契約を11月27日にキャンセルしたと報じられている。ただ、これはF-16のアップグレード自体を止めたわけではなく、トルコは自国の技術でアップグレードする事を選択。トルコ航空宇宙産業(TUSAS)はアメリカ製のコンポーネントに近い技術を既に開発、確立したとされ、アップグレードの目玉であるAESAレーダーも開発している。トルコ空軍には35機のF-16C/D Block30、100機のBlock40、99機のBlock50があるが、自国で対応することでアップグレードする機体数が当初の予定の79機より増える可能性はある。
また、今回、アメリカとの合意をキャンセルした理由として、国内対応にすることでコストを抑え、その分をF-35の調達資金に向けるためとされている。
40機のF-35取得へ
トルコのヤシャル・ギュレル国防相は、11月26日に行われた国会での国防予算に関するセッションで、米国がトルコへのF-35戦闘機の販売に関する姿勢を再検討したことを議員らに伝えた。ギュレル氏は、この方針転換は、トルコが第5世代戦闘機KAANを自国で製造できる能力があることを米国が認識したことによるものだと主張し、米国はトルコにF-35を販売する用意があると述べた。トルコ国防省は最初、米国に対し、6機のF-35Aの調達を要請したとされる。これはトルコ空軍向けに製造された機体で、トルコがロシアからS-400防空ミサイルを購入した事を受けて、F-35プロジェクトから締め出され、完成したものの納入されずに保管されていた機体だ。ただ、直近の報道では6機ではなく、40機を要求したと報じられている。これらの動きはS-400の問題が解決に向かっているのも大きい。
トルコはNATO加盟国ながら、仮想敵国であるロシアからS-400防空ミサイルシステムをアメリカの反対も押し切って購入。その結果、F-35プロジェクトから外され、購入ができなくなっていた。しかし、このS-400をアメリカとトルコが共同運用するトルコのトルコ南部のインジルリク空軍基地に移転、米軍の監視下に置くことでF-35プロジェクトに再参加させる事を容認する方向であると報じられていたが、最近の協議でトルコはアメリカの要求を拒否。トルコ軍の完全管理下に置く事になったが、米国はこの問題に関するトルコの立場にもはや異議を唱えていないという。S-400は2019年に納入されて以降、一度も運用されていないが、命令から12時間以内で稼働できる状態にあるとトルコ国防省は述べている。
ドイツはユーロファイター・タイフーンの購入を承認
トルコ空軍の戦闘機はF-16とF-4ファントムII、そして、調達を計画しているF-35とどれもアメリカ製だ。しかし、S-400の問題でF-35の購入ができなくなり、F-16のアップグレードが遅れた事をうけ、アメリカのみに依存する状況に危機感を覚えたトルコ国防省は調達先の多様化を検討。英独伊西が共同開発したユーロファイター・タイフーンの調達を検討する。しかし、ドイツはS-400の問題やトルコ政府のイスラエルに対する姿勢。そして、シリア紛争においてクルド人部隊を攻撃するために同戦闘機が使用される事を懸念して反対。過去にはNATOの枠組みでの使用のみを条件に販売したレオパルト2A4戦車をシリア紛争に投入し、クルド人を攻撃した事を受けて、トルコへのパワーパックの供給を停止している。しかし、ドイツ政府はトルコへの販売に向け、販売当局に作業を委託したとトルコ国防省筋が11月14日に明らかにしており、40機のユーロファイター・タイフーンの販売に動き始めている。
F-16の近代化、F-35とユーロファイター・タイフーンの調達となれば、トルコ空軍は一気に近代化。地域最大の空軍力を持つ事になる。