5月8日水曜、アメリカ海軍のズムウォルト級ミサイル駆逐艦の一番艦であるUSSズムウォルト(DDG1000)は、ズムウォルト級の象徴ともいえる155ミリ主砲の先進砲システム(AGS)を船体から正式に取り外した。
ズムウォルト級ミサイル駆逐艦は2022年に米海軍艦艇初の海上ベースの極超音速攻撃能力を得ることが決定し、防衛企業ロッキード・マーティン社が2023年2月に契約を獲得。2023年8月中旬には、その改修のため、一番艦であるUSSズムウォルト(DDG-1000)がミシシッピ州パスカグーラにあるインガルス造船所に送られ、改修が進められていた。そして、今回、ズムウォルトの象徴ともいえる155mm主砲の先進砲システム(AGS)が取り除かれ、改修へ向けた重要なマイルストーンに到達した。
不要となっていた先進砲システム(AGS)
ズムウォルト級駆逐艦は沿岸から陸上部隊を支援するために建造されたステルス艦で、主砲には2門の「155mm AGS(先進砲システム)」を搭載している。AGSは「LRLAP(長距離対地攻撃弾)」を使用する分間20発、118kmの超射程の艦砲で、現状、艦砲としては世界最強になる。しかし、砲弾の単価が日本円で一発一億円と高額で、これは当時のトマホーク巡航ミサイルとほぼ同額であった。誘導機能があり、射程1000km以上あるミサイルと比較すれば明らかに高額で量産は見送られ、生産もストップしている。そこで、米軍艦艇では最も発電容量が高い発電機を搭載する同艦にレールガンを搭載する計画も上がったが、レールガンの開発も米海軍は中断。2011年から建造が始まり30隻以上あった建造計画も僅か3隻のみの建造に終わっており、これまで同艦は目立った活躍を見せておらず、ズムウォルト級は米海軍ではお払い箱になった感が否めなかった。しかし、そんなズムウォルト級を米海軍初の極超音速ミサイル搭載する艦艇プラットフォームにすることが決定する。
計画ではバージニア級原子力潜水艦に搭載されている巡航ミサイルシステム「バージニア ペイロード モジュール(VPM)」がズムウォルト級に搭載され、通常型即時攻撃(Conventional Prompt Strike, CPS)が統合される。CPSは極超音速ブースト・グライドミサイル兵器システムになり、米陸軍が開発する長距離極超音速兵器 (LRHW)と同じく、大型ロケットブースターとーズコーンカバー内に格納された弾頭の共通極超音速滑空体 (C-HGB) で構成された極超音速ミサイルを発射する。ミサイルは射程2700kmを擁するとされ、弾頭は最高速度”マッハ17”で飛行、敵の防空網に対して高い生存性を持つ極超音速ミサイルだ。バージニア級原子力潜水艦のVPMには12発のミサイルが搭載でき、ズムウォルト級でも同じく12発の極超音速ミサイルが搭載される。バージニア級のVPNでは既に多くの試験を実施、極超音速ミサイルが搭載されることは実証済みで、バージニア級原子力潜水艦にも極超音速ミサイルは搭載される予定だ。
今回、このCPSを統合する改修に伴いズムウォルト級に2基あった主砲の”AGS”は撤去される。米海軍は2025年に極超音速ミサイルの発射試験を実施する予定で、ズムウォルト級は極超音速ミサイルを配備する初の米海軍艦艇となる。二番艦のマイケル・モンスール、三番艦のリンドン・B・ジョンソンと全3隻のズムウォルト級は同様の改修を受ける予定だ。