CNNの報道によれば、アメリカのバイデン大統領は5月31日、軍事支援としてウクライナに供与した米国製兵器によるロシア領内への越境攻撃を限定的に承認した。これにより、ウクライナは供与が迫るF-16戦闘機によるロシア領内にある軍事施設への攻撃が可能になった。
ロシア・ウクライナ戦争はウクライナ側の砲弾不足もあり、昨年からウクライナが押され気味になり、東部戦線は後退。その好機に乗じてロシア軍は一時撤退していた北部方面の攻撃を5月に再開し、ハリキウ方面への侵攻を開始した。ロシア軍はハリキウ侵攻にあたり、ウクライナの越境攻撃の制限を逆手にとって、ロシア領内から砲撃を行っているが、現状、この砲陣地に西側製兵器で反撃することができなかった。戦局がウクライナ不利な状況に大きな進展を見せた事で西側はようやく、これまで禁止してきた西側製兵器によるロシア領内への攻撃の使用を許可した。
NATO13か国が越境攻撃を承認
Macron brought a map to a press conference, to show where russia are launching attacks from and show just how close they are but yet , Ukraine aren’t allowed to attack the bases, ensuring Ukrainian lives are saved.
— Sytheruk (Ben) 🇬🇧 🇺🇦 (@SythUK) May 28, 2024
It’s pure madness to not allow Ukraine to strike russia. pic.twitter.com/6qMkH5RrjK
先に越境攻撃承認の動きを見せたのはイギリスとされ、密かに供与した兵器によるロシア領内への攻撃を許可したとされている。そして、フランスのマクロン大統領は5月末のドイツ訪問時に報道陣を前に地図を交えながら、国境周辺にある基地がウクライナ攻撃に使用されている点を訴え、供与した兵器のロシア領内への越境攻撃を承認することを発表。デンマークのラース・ロッケ・ラスムッセン外相は5月30日、デンマークがウクライナに供与するF-16戦闘機による、越境攻撃を承認すると発表している。早ければ、6機のF-16が6月、デンマークからウクライナに納入される。既に第一陣のパイロット、整備士の訓練は終わっており、納入され次第、直ぐに運用可能な状況だ。
現在、アメリカ、イギリス、フランス、デンマーク、オランダ、ポーランド、スウェーデン、フィンランド、チェコ、リトアニア、ラトビア、エストニア、カナダを含むNATO 13カ国が、ロシアへの越境攻撃に賛同、供与した兵器の使用を承認している。アメリカ、イギリス、フランスなどに続く支援国であるドイツはまだ、二の足を踏んでいる。マクロン大統領がロシアの越境攻撃を承認する演説を行った際、ドイツのショルツ首相も同席していたが、彼は渋い顔をし、マクロン大統領に賛同することは無かった。アメリカ、イギリス、フランスが射程200km以上のミサイルを供与している中、ドイツ国内でも空中発射巡航ミサイル「タウルス」を供与すべきという声が再三上がっているが、まだ、実現していない。ドイツのラインメタル社は射程100kmを有する砲弾の提供を発表しているが、今のところ越境攻撃に使用することはできない。
また、先日、30機のF-16戦闘機の供与を発表したベルギーだが、供与する条件として、ロシア領内への攻撃に使用しないことを上げており、こちらもまだ賛同していない。ベルギーからは年内中に最初のF-16が供与される予定だ。
越境攻撃の条件
ロシアへの越境攻撃が承認されたからといって、自由に使用できるわけではない。まず、第一前提として攻撃対象となるのは軍事施設、攻撃拠点のみだ。それ以外の民間施設やインフラへの攻撃には使用してはならい。これは世界的な戦争ルールだが、ロシア側は民間施設も攻撃対象にしている。そして、アメリカはウクライナが攻撃できるエリアを指定している。それは、ロシアが最近侵攻を再開した、ハリキウ州の国境に近い軍事施設および、攻撃拠点に限るという点だ。国境周辺というのが国境から何kmなのかは勿論明かされていないが、砲撃の射程などを勘案すると少なくとも50kmは問題ないと思われる。ロシア空軍は最近、戦闘機による滑空誘導爆弾の空爆を多用。飛行場への攻撃に関してはもっと対象エリアを広げているかもしれない。しかし、アメリカが最近、ウクライナに供与した最大射程300kmの弾道ミサイルATACMSに関しては一貫して、ロシア領内への攻撃の使用にすることは認めないとされている。射程を踏まえれば越境攻撃には最適の兵器だが、現状、これはクリミア半島への攻撃に限定されている。
イギリス。フランスが供与している空中発射型巡航ミサイル「StormShadow/SCALP」は射程250kmあるが、アメリカのように攻撃エリアが指定されているのか不明だ。
The AFU may have hit the S-300/400 with HIMARS MLRS in Belgorod region
— NEXTA (@nexta_tv) June 3, 2024
Footage of hit Russian launchers of surface-to-air missile systems, which the occupiers used to strike Kharkiv and the region, has appeared online.
Pro-Kremlin media claim that the strike was carried out on… pic.twitter.com/v8mYddHaAl
既に越境攻撃は始まっているようで6月3日にはハルキウ州に隣接するロシアのベルゴロド州にある防空ミサイルシステムS-300/400がアメリカから供与されたHIMARSによる攻撃で破壊されたのが確認されている。越境攻撃が本格化すれば戦況はウクライナに好転するだろうか。