ロシアで開催されている軍事技術フォーラム「Army2022」の防衛産業見本市でウクライナで鹵獲されたとする攻撃ドローン「バイラクタルTB2」が展示されました。しかし、生産元のトルコは、それを偽物だと指摘しています。
毎年、ロシアの首都モスクワで開催されている軍事技術フォーラム「Army2022」の防衛産業見本市はロシアの新兵器のお披露目会でもあります。しかし、今年はウクライナで鹵獲された西側の兵器を展示して、ロシア軍の成果を誇示する場でもあります。実際、アメリカのM777 155mm榴弾砲が展示されているのが確認されています。そして、もう一つ目玉として展示されたのが、ウクライナ軍が使用する攻撃ドローンの「バイラクタルTB2」です。バイラクタルTB2はロシアによる侵攻初期の劣勢の中、ロシア軍地上部隊に効果的な攻撃を行い、獅子奮迅の活躍、歌も作られるなどして、国民から崇められた兵器です。その後も黒海艦隊の旗艦モスクワの沈没、スネーク島の奪還に関わるなど、重要な局面には必ず、バイラクタルTB2が関わっています。この機体をロシアが鹵獲したとすれば、ウクライナ軍に衝撃を与え、ロシアにとってもロシア軍の成果を世界に対し、誇示することができます。しかし、見本市に展示された機体はよく見ると偽物ということがわかります。
バイラクタルTB2とは
「バイラクタルTB2」はトルコの防衛企業であるBaykar(ベイカー)社によって開発された中型の無人偵察攻撃機(UAV)になり、2015年6月にトルコ軍に初めて配備されました。TB2には偵察ドローンとして任務をこなすための電気光学/赤外線カメラ、レーザー指示装置、レーザー距離計、レーザーポインター。そして、攻撃ドローンとして翼には4つのハードポイントがあり、最大の4つの長距離対戦車ミサイル、小型精密誘導爆弾、レーザー誘導ミサイル/ロケットを搭載できます。短距離対空ミサイルの射程外である高度5000~8200mの高高度を巡航速度130km/hの低速で最大27時間、6000kmを昼夜関係なく飛行します。ウクライナ軍は2019年から運用を開始。ロシア侵攻後はトルコやリトアニアから支援を受け、機体数を増やしています。
トルコが偽物と指摘、お粗末な模倣が露呈
鹵獲されたとされるこの機体を見た生産元のトルコのメディアと専門家はこれを偽物と指摘しています。というか、実物の写真と比較してみれば、素人目でも、それが偽物であるのは明らかです。上の写真、上半分がウクライナ軍に配備されている実際のバイラクタルTB2。そして、下半分がロシアで展示された機体です。まず、目が行くのが大きくペイントされた赤い「403」という数字。これは機体のシリアル番号です。まず、この大きさや位置、フォントが微妙に実物と異なるのが専門家でなくとも分かります。シリアル番号から察するに機体の形状やサイズ感も異なるのが分かります。後部にある黄色と青の丸いマークはウクライナ空軍のマークですが、実際は吸気ダクトの上にペイントされますが、展示されている機体にダクトはありません。ノーズピースの形状も異なり、パーツも不足。尾翼も明らかに寸法が違うのは明らかで、よくみると自重でちょっと垂れ下がっており、いろいろチープさが目立ちます。
さらに翼のハードポイントに付いている兵器。これはトルコのRoketsan社製の誘導爆弾MAM-LとMAM-Cになりますが、MAM-Cにいたっては前部のシーカー部分が緑色になっており、実物と異なります。
そもそも無傷で手に入るのがおかしい
展示されているバイラクタルTB2はほぼ、無傷のように見えますが、仮に鹵獲されたとしても、この状態で鹵獲されること自体がおかしいです。TB2は中型の無人機で高度5000~8200mの高高度を飛行します。なので、まず、飛行中の機体を無傷で鹵獲するのは無理です。TB2は基地局から300kmの半径で操作が可能です。基地局と離着陸場所は基本、敵から離れた支配地域の安全圏になります。敵に鹵獲されるような危険地帯では行いません。なので、駐機中に鹵獲されることもないと思われます。
どちらにせよ、展示された機体が偽物なのは明らかです。つまり、ウクライナ軍のバイラクタルTB2はロシアに鹵獲されていません。