ウクライナはクリミア半島とロシアを繋ぐ、クリミア大橋の破壊を画策しているとされ、ロシアはこれを大いに恐れており、「もし、破壊すれば核兵器の使用も辞さない」と核の脅しを掛けています。それほど、この橋はロシアにとって重要です。
クリミア大橋はケルチ海峡に掛かることから「ケルチ海峡大橋」とも呼ばれ、クリミア半島とロシアのクラスノダール地方のタマン半島とを繋ぐ唯一の陸路であり、ロシアにとってクリミアを治める上での生命線です。
2014年3月にロシアはクリミア半島に侵攻し、ウクライナ領であった同半島を一方的に併合、占領するも、陸路はウクライナ側にしかなく、クリミア半島とロシアを結ぶのはフェリーのみ。これも悪天候では運用できないと、クリミアは陸の孤島と化します。しかし、ウクライナとロシアはクリミア侵攻前にクリミアとロシアのクラスノダール地方のタマン半島とを繋ぐ橋の建設計画を進めており、実はクリミア併合の直前2014年1月に両者間で合意していました。クリミアを併合したプーチンは橋の建設の着工開始を命令。そして2018年5月にヨーロッパ最長の18.1kmの橋が完成します。2019年1月には鉄道部分も開通。クリミアとロシア本土が物理的に繋がり、ロシアによるクリミアの支配はより強まります。
ロシアによるウクライナ侵攻が始まってからは、この橋はクリミアを経由し、へルソンといったウクライナ南部の戦闘地域に物資を輸送する供給ラインであり、兵站上、非常に重要な交通の要衝となっています。それはつまり、この橋を破壊すれば、ウクライナ南部での戦闘において、ロシア軍の兵站は停滞することになり、ウクライナ側に有利に働くということです。
これをもちろんウクライナ側が黙って見ている訳がなく、西側から高機動ロケットシステムのHIMARSやハープーン対艦ミサイルといった長射程の精密攻撃兵器を受け取ったことで、橋の破壊を計画。「絶対に破壊する」と息まいています。
これにロシアは橋が破壊されるのではと戦々恐々しており、最近、ミサイル攻撃を防ぐために橋に新たな装備の配備や演習を行っています。その一つがレーダーに探知されやすいように複数の反射板を設置した船舶を橋の近くに配置、ミサイルが誤認して舟を狙うことを狙っています。
そして、もう一つが煙幕で橋を覆うことです。これらはミサイル誘導に使用されるレーザーを妨害するためです。しかし、総長18kmに及ぶ橋全体を守りきることは物理的に不可能であり、このように妨害策がもれていることからも、ウクライナ側も攻撃前にどこに防御装置が配備されているかは衛星などを使い、事前に情報を収集することは簡単であり、つまり、防ぐ術はないということです
ロシア側も防ぎきれないことは分かっており、そこで最強の防護策をうってきました。ウクライナ側が橋の爆破を表明した際、ロシア側は「橋が爆撃されれば核兵器の使用は除外されない」と核の脅しを行ったのです。この脅しは最強です。侵攻開始当初も核をちらつかせ、NATOの参戦、武器供与を思いとどまらせました。
ウクライナが橋を攻撃する上でも難点があります。現在、へルソン、メリトポリといった南部を抑えられているウクライナが橋を攻撃するには射程300kmの兵器が必要です。これができるのはHIMARSの短距離弾道ミサイルATACMS、またはハープーンのSLAM(Standoff Land Attack Missile)だけです。ATACMSはアメリカは提供しないといっており、そうするとSLAMだけになります。ハープーンに関しては、タイプについての言及はありません。
ウクライナは橋を攻撃するのでしょうか?そして、ロシアは本当に核を使うのでしょうか?
クリミア大橋を巡る攻防が今後の戦局の分岐点になるかもしれません。
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