ウクライナ軍の防空システムは完全に死んだのか?ウクライナの対空兵器

ロシアによるウクライナ侵攻がとうとう始まってしまった。ロシア軍はまず、ウクライナの航空戦力、防空システムを潰すべく、精密誘導ミサイルにより、ウクライナ全土の空港と防空拠点の攻撃を行ったようだ。これらの被害状況はまだ不明だが、国内の軍事および民間空港、防空レーダーは破壊されたようだ。軍用機の被害は不明だが、滑走路が使用できなければ、離着陸はできない。実際、24日にウクライナ空軍のSu-27戦闘機が隣国ルーマニアの空港に着陸したという情報も。また、首都キエフ近くのアントノフ空港にロシアの空挺部隊が降下したという情報もある。ロシア軍が制空権をほぼ握った報道があるが、26日はロシア軍のIl-76輸送機が撃墜されという情報もある。ウクライナ軍の防空兵器はどうなっているのであろう?

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S-300PS / PT(SA-10)

S-300PS / PT(SA-10)
mod ukraine

ウクライナが持つ唯一の長距離対空ミサイルがS-300になる。1970年代にソ連で開発され、以後もロシアではバージョンアップが繰り返され、世界でも有数の防空ミサイルになるが、ウクライナに配備されているのは初期モデルのS-300PS / PTと古いモデルでS-300シリーズの中でも性能が低い。ロシアに対抗すべく、国内で近代化改修は行っているようだが、使用されているロシア製(ソ連製)パーツが入手できないなど、慢性的なパーツ不足があり、満足に稼働できるかどうかは不明だ。トラックで牽引する自走発射式になるが、車体もでかく目立つ上、機動性は悪い。ロシアが防空兵器を破壊する上で真っ先に狙うと思われ、既に破壊されている可能性は高い。最大有効射程は90km、最大有効高度25kmになるが長距離レーダー網も破壊されているだろう。

S-125M Neva

1950年代にソ連で開発され短中距離対空ミサイル。ウクライナでは独自の近代化を行っている。20km以上の範囲で戦闘機クラスの標的の検知を保証。ミサイルは最大射程40km、高度は25km、改良によりガイダンスの精度が大幅に向上し、回避性能の高いターゲットへの迎撃確率が高くなっている。しかし、これは固定式の兵器のため、おそらく既に破壊されていると思われる。

2K12 Kub(SA-6)/2K12 Kub M-1( SA-11)

Photo Віктор Муженко

同じくソ連製の中距離自走式対空ミサイルで1960年代に開発された時代遅れの兵器だったが、ウクライナでは独自に近代化し、電子化し大幅にバージョンアップされている。ウクライナのUkrobrononservice社によって開発された2K12-2D Kwadrat-2Dシステムは最大38 kmの距離で第4世代戦闘機、最大20km以上の距離で低空飛行する巡航ミサイルを検出。自動化されたデータ伝送により、ターゲットの検出・特定から打ち上げまでの応答時間24秒が2~4分の1に短縮された。これにより、脅威を無力化する確率が60~80%から85%に上昇している。ミサイルは3連装式で有効範囲は最大距離24km、高度8~14km。自走式で最大速度44km/h、260kmの走行距離を有す。発射機、レーダー車、指揮者、運搬車など4台で構成されている。S-300よりも移動が機敏で小型で茂みに隠れることもでき、生き残っている可能性はある。

9K330 Tor

1970年代に開発されたソ連製の短距離自走式地対空ミサイル。実は2001年にスペアパーツの不足やその他のメンテナンス上の懸念からウクライナ軍は運用を停止している。しかし、2014年のロシアのクリミア侵攻、東部紛争もあり、戦線に復帰。オーバーホール、近代化改修はされたようだが、改修後の機能は不明だ。従来のスペックであれば8発のミサイルを搭載し、レーダー検出範囲は20kmでミサイルの最大射程は12km、高度6kmになる。2K12と同じく4両編成になり、速度は65km/h、走行距離500kmと機動性は高く、こちらも生き残っている可能性はある。

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2つのMANPADS

ウクライナはNATO諸国の協力を得て兵士が持ち運び可能な2つの携行式防空ミサイル(MANPADS)を多数配備している。これまでの防空ミサイルはレーダーが必須で、ある程度の訓練と技術的知識が必要だが、MANPADSは視認によって照準が可能で、レーダーは必須ではない。照準から発射まで一人で運用ができ、短時間の訓練で運用ができ、敵からも見つかりにくく、運用する場所を選ばない。車両などと違いレーダーに検知されることもない。

FIM-92 スティンガー

米陸軍はスティンガーの替わりを探しています

アメリカのジェネラル・ダイナミクス社が1970年代に開発したMANPADS。スティンガーという名で世界中で知られている。世界で最も優れたMANPADSで命中率は80%を誇る。赤外線・紫外線誘導方式で、発射後は自動追尾するので、射手は即座に避難できる。敵味方を識別するIFFを搭載し、射程は最大距離4.8km、高度3.8km、システム重量は15.6kg。1980年代のソ連のアフガニスタン侵攻ではアメリカからムジャヒディンに多数のスティンガーが供与され、多数のソ連軍ヘリを撃墜した。ウクライナにはアメリカおよびバルト三国から多数のスティンガーが供与されている。

Grom (グロム)

ウクライナにも送られたポーランド製MANPADS”グロム”

ポーランド製のMANPADSでソ連製のMANPADS”9K38 Igla(イグラ)”をコピーして開発された。赤外線誘導システムを備え距離6.5km、高度4kmの標的を攻撃することができる。また最小範囲400m~、最小高度10m~と短距離化されており、低高度を飛行するUAVにも対応している。2008年のジョージアとロシアによる「南オセチア紛争」では30発の発射装置と100発以上のミサイルがジョージアに輸出され、使用された。ロシア軍のSu‐25攻撃機を複数撃墜している。

シリアでは反政府軍のMANPADSによりロシア軍のヘリや航空機が複数撃墜されており、敵対する航空機がない同地域においてロシア軍は攻撃を恐れ低空飛行による攻撃ができないとされている。アフガニスタンでもそうだが、ロシア軍が最も恐れているのはMANPADSかもしれない。戦力的に圧倒的不利なウクライナ軍は真正面からの戦闘よりもゲリラ戦を展開すると考えられ、MANPADSはアフガン、シリアと同様にロシア軍を苦しめることになるだろう。

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