シリアの混乱に乗じるイスラエル、ゴラン高原を占領し、軍事施設を攻撃

シリアの混乱に乗じるイスラエル、ゴラン高原を占領し、軍事施設を攻撃

アサド元大統領は8日日曜、首都ダマスカスを離れ、国外へ脱出。政府軍も大統領の逃亡を受け、目立った抵抗をすることは無く、反政府勢力はほぼ無血でダマスカスを制圧した。政権移譲に向けた協議が始まっているが、まだ権力不在の状況であり、しばらくは混迷が続きそうなシリアだが、その隙に乗じたのが、シリアと敵対していた隣国のイスラエルだ。

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父親の代から半世紀続いたアサド政権の独裁は11月27日始まった反政府勢力の大規模攻勢から、僅か12日で終わりを迎えた。一部報道ではアサド元大統領は国内にとどまり、直前まで反政府勢力と権力の移譲について交渉を行っていたが、決裂。大統領の辞任を決断し、アサド氏は8日に首都ダマスカスを脱出。アサド氏が乗った飛行機が墜落したという情報が流れたが、同日、アサド政権を支援していたロシアがアサド一家がモスクワに到着した事を発表している。人道的理由で亡命を認められたと報じられているが、アサド氏はまだカメラの前に姿を現していない。長年支援してきたプーチン大統領はこの散々たる結末にさぞ、お冠と思われ、今後の処遇が気になるところだ。

シリア国内では反政府派への権限移譲へ向けた協議が始まっており、ダマスカスに留まっていたモハメド・ガジ・アルジャラリ首相は、反政府勢力に権力を移譲するための協議を始めた。反政府勢力の作戦司令官は秩序を保つため、正式に権限が引き渡されるまで国家機関はアルジャラリ氏の監督下に置かれると発表している。とはいえ、国内は治安が悪化。略奪などが起きており、夜間外出禁止令が発令されるなど混乱が続いている。正規軍は不在な状況であり、その混乱に乗じたのがシリアと長年敵対してきた隣国イスラエルだ。

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混乱に乗じたイスラエル

イスラエルのネタニヤフ首相は8日、国防軍がゴラン高原の非武装緩衝地帯を一時的に掌握したと発表した。ゴラン高原はシリア、イスラエル、ヨルダンの国境が接する岩だらけの台地で、ダマスカスの南約60キロに位置している。シリアとイスラエルは、ここの領有権を巡って長年争っている。国際的にはシリア領とみなされているが、第三次中東戦争で勝利したイスラエルが7割を実効支配、1981年に一方的に併合を宣言し、ユダヤ人の入植を始めた。今回、イスラエルはシリアの混乱に乗じ、シリア側の非武装緩衝地帯に侵入。同地域を完全に制圧した。非武装地帯にいたシリア軍は国内の状況を受け、7日土曜に撤退しており、それに乗じた形だ。「いかなる敵対勢力も我が国の国境に拠点を置くことを許さない」とネタニヤフ首相は自らゴラン高原まで赴き、そう述べた。

イスラエルの行いはこれだけではない。イスラエルメディアによれば、イスラエル国防軍が反政府勢力の手に渡るのを防ぐため、ダマスカス近郊の化学兵器貯蔵庫、防空砲台、ミサイル工場に対して夜通し空爆を開始したと報じた。

また、アメリカ中央軍はこの混乱に乗じてイスラム国(IS)が勢力を拡大する事を懸念して、シリア国内のISの拠点に空爆を行っている。そして、シリア国内では元アサド政府軍兵士の処遇をどうするかという問題もある。今回、政府軍は目立った抵抗をすることなく、撤退しているわけだが、これまでの内戦では多くのシリア国民を虐殺してきた。政府軍兵士約2000人が隣国イラクに逃れた事が報道されており、彼らは兵器を伴ってイラクに入り、そこで武装解除している。ちなみに先の内戦ではイラク義勇兵がシリア政府軍と共に戦っており、イラクは前の戦闘でアサド政権が危うくなった時、唯一、大使館を閉鎖しなかった国でもあり、友好国だった。元政府軍兵士の扱いを間違えれば不穏分子と今後の新生シリアの新しい火種になる。

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また、アサド政権を支援するために駐留していたロシア軍もシリア国内から完全撤退していない。北西部地中海沿岸のロシア軍の主要拠点である、タルトゥース海軍基地とフメイミム空軍基地はまだ、反政府派に制圧されておらず、厳戒態勢が布かれているが、艦艇および航空機は同基地から撤退した事が衛星写真で確認されており、放棄も時間の問題だろう。また、シリア国内には105カ所のロシア軍の拠点がある。場所によってはロシア兵が取り残され、脱出できずに孤立した状態になっている。ただ、モスクワは反政府勢力に接触。反政府派の指導派たちはシリアに残るロシア兵、外交使節団の安全を保証したとロシア側は伝えている。しかし、ロシアは2015年に軍事介入し、シリア国内で無差別爆撃を実施。シリアにおける民間人の死者の70%は空爆によるものだ。今回の反政府派の攻勢でも、ロシア軍は空爆で反撃を行い、子供を含む数十人が死亡しており、シリア国民のロシアへの恨みは深い。

また、北東部一帯はアメリカの支援を受ける少数民族クルド人の民兵組織「シリア民主軍」(SDF)が支配している。今回、反政府派の主力を担っていたのは「はハヤト・タハリール・シャム(HTS)」だが、それに協力したのが、トルコが支援する「シリア国民軍(SNA)」だ。SNAとSDFは敵対しており、今回の紛争の最中、SNAはSDFに攻撃を仕掛けている。

アサド政権が倒れてもシリアはまだ多くの火種が残っており、かつて、独裁者が倒れたイラクやリビアのように混乱は数年続くと思われる。

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