天候は戦場において重要な要素であり、時には勝利を左右することもあります。かつて、九州に二度、来襲した元寇は神風と呼ばれた暴風雨と台風によって、船団が沈没、退却を余儀なくされました。三国志で有名な「赤壁の戦い」では劉備軍の武将”周瑜”と軍師の”諸葛孔明”は風を利用して、曹操の船団を火攻めにして勝利おさめています。軍事技術が発展した現在でも悪天候下では攻撃が制限されるなど、天候は戦局に大きな影響を与えます。
雨雲を人工的に発生させる「雲の種」
天候は自然のメカニズムによって変化します。しかし、これを人間の手によって自由自在に操ることができれば、それは最強の兵器になります。いち早く気象兵器に目を付けたのは米軍でした。米軍は気象の軍事的重要性を認識し、戦局に影響を与えることができるとし、60年代の初めから気象兵器の研究を始めます。そこで目を付けたのが”Cloud seeding(クラウドシーディング)”といわれる「雲の種」です。これはヨウ化銀とヨウ化鉛を大気中に散布して雲を凝結、氷の結晶を作ることで人工的に雨雲を発生させ、雨を降らせる方法です。
これが最初に気象兵器として使用されたのがベトナム戦争です。木々が鬱蒼と茂る山岳ジャングルでのゲリラ戦に米軍は苦戦します。ジャングルに潜み、トンネル内を移動する北ベトナム兵に対して、空爆、砲撃の効果は薄く、地上の兵に効果的な援護ができませんでした。そこで、思いついたのが気象兵器による攻撃です。「ポパイ作戦」と呼ばれたこの作戦は北ベトナムの上空に雲の種を散布し、人工的に雨を降らせました。1967年から1972年の毎年雨季にかけて3000回にも及ぶ散布が行われ、平均30〜45日間雨季を長引かせました。皆さんもご存知のように大雨、長雨が発生すると地盤が緩みます。これにより山岳地帯では土砂崩れが頻発、河川は増水するなどして、道路、補給線は寸断され、ヘリといった航空輸送能力を持たない北ベトナム軍の物資輸送能力は直ちに半分に低下し、補給・行軍は困難となり、前線の部隊は孤立するなど一定の効果をもたらします。
しかし、このような気象兵器は意図的に洪水をおこさせ街を浸水、破壊し、不特定多数の一般人を巻き込みかねない非人道的な兵器にもなります。研究を進めれば意図的に台風を発生させたり、進路を変更することもできるかもしれません
現在は使用禁止
1976年12月10日に気象兵器を制限する「環境改変兵器禁止条約」が国連で採択されます。条約では地震や津波、台風など自然界で発生する諸現象を故意に変更し、それを軍事利用することを禁止しています。これにはアメリカやロシア、中国といった軍事大国が批准、または加盟しており、気象兵器は世界的に禁止されています。
しかし、軍事目的以外での利用は規制されておらず、干ばつ対策などで人工的に雨を降らせることは認めらています。2008年の北京オリンピックでは、開催直前にわざと雨を降らせ、北京周辺の雨雲を無くし、晴れ渡るオリンピックを開催させることにも利用されています。
アメリカが開発したHARPA
米軍はかつてアラスカで「高周波活性オーロラ調査プログラム」、通称「HAARP」と呼ばれる研究プログラムを行っていました。研究の目的は地球の電離層と地球近傍の宇宙環境で発生する自然現象を探求し、理解することです。この研究には日本からも東京大学が協力していました。一見何の研究だかさっぱり分かりませんが、電離層とは「地球を取り巻く大気の上層部にある分子や原子が、紫外線やエックス線などにより電離した領域」でこれを操作しようとしているのではないかと疑惑が沸き上がります。この電離層を操作できれば、天候も操れるとされていたからです。電離層の制御は不可能で操作しようとすれば返って自然災害を引き起こす可能性もあると一部の科学者は主張していました。そのような疑惑もあり、近年の異常気象はHAARPのせいだという主張する人も現れます。これらはどれも憶測でしかありませんが、2014年に米軍はHAARPを閉鎖し、現在は民間の研究施設として研究が続いていいます。
自然を操ることは昔から神への冒涜とされてきました。ここ数年、異常気象が叫ばれてきますが。それを人間が操作しようとすれば、どんな副作用があるか分かりません。映画『ジオストーム』のようなことが起こりかねないでしょう。