
米海軍は、インド太平洋地域で拡大する中国の影響力に対抗するため、太平洋上にある余剰となった海上石油掘削装置を移動式海軍基地に転換する事を検討しているとされる。
米海軍当局者は、中国がインド太平洋地域で勢力を拡大し続ける中、浮遊移動基地が戦略的に重要な意味を持つと述べており、広大な海域をカバーするために、海軍基地、ミサイル防衛システムと機能する移動基地の必要性を訴えており、浮遊基地の戦略的重要性について陸上防衛システムに関連するリスクとコストを大幅に削減できる可能性があると指摘している。
その米海軍の要求に応える形で2024年4月に米国の造船企業Leidos Gibbs and Cox社が発表した「モバイル防衛/補給プラットフォーム(MODEP)Mobile Defense/Depot Platform (MODEP)」というコンセプトだ。これは余剰となった海上石油採掘施設を移動可能で12か月以上独立して運用できる大型浮遊移動基地に改造する計画になる。改造されたプラットフォームには、最大512発を搭載する垂直発射システム (VLS) セルまたは100発の大型ミサイル発射装置を搭載する。これは米海軍の主力ミサイル駆逐艦アーレイバーク級の5倍の規模になり、ミサイル防空システム、ミサイル打撃能力を強化する。現在、米海軍はイージス艦や地対空誘導弾ペトリオット・システムなどの既存の装備を活用して、弾道ミサイルの迎撃や飛翔状況の探知・追尾、指揮統制・通信を行うことで、多層的に弾道ミサイルに対処する「弾道ミサイル防衛システム(BMD)」の構築を日本と共同で行っているが、新たに弾道ミサイル防衛システムを構築するよりも、この浮遊移動基地を設置する方がコストは十分の一で済むとされる。また、このコンセプトには、これらの移動式基地が、海上前方展開基地構成を通じて米海軍の水上戦闘艦艇と原子力潜水艦の補給拠点として機能し、後方に戻らずとも艦隊の維持を支援する事が期待されている。
アメリカが所有する海上石油採掘装置は全てカリフォルニア沖にあり、その数は23基になる。また、2025年2月現在、アジア太平洋地域には218基の石油・ガス掘削装置があるとされ、その内、東南アジアの海上掘削リグは合計56基になる。地域別では産油国のブルネイやタイ湾に集中している。アジア太平洋地域には、2030年までに生産が停止すると予想される沖合油田が多数あり、今後不要になってくる海上施設が多数出てくる可能性がある。
ただ、このような構想は以前からあり、海上基地は攻撃に対して脆弱で政治的、安全保障上の課題を指摘されている。海上基地の建設と運営にかかる高額なコストについても懸念が示されている。