プーチン大統領は21日、ウクライナ侵攻での戦線を維持をすることを目的に30万人の予備役の召集を承認する大統領令を発したことを発表した。これにより、軍務経験はあるものの退役し、通常の市民生活を送っていた一般市民が召集の対象となり、ウクライナの戦線に送られることになる。大統領令が発令されたその日から、既に対象者には召集令状が届いているようで、数日前から既に召集に向けた段取りは進められていたのだろう。祖国と愛する人を護るため志願するウクライナ人に対し、特に守るものもなく、侵略戦争のために強制的に召集され、戦地に送られるロシア人にどれだけの士気があるのか疑うが、士気の低下を見越しているのか、ロシア政府はこの動員の陰で、兵役義務に関する処罰を厳格化している。
5年から最大15年の懲役刑に
ロシア下院は20日、ウクライナでの戦闘の中での軍の規律を高めるためとして職務に違反した兵士の罰則を強化する法律を承認した。制定・公布には上院の承認を得る必要があり、その後、ウラジーミル・プーチン大統領の署名によって成立させる必要があるが、これは特に問題なく進むと予測される。この法律が施行されると、兵役逃れには禁固10年、兵役期間中に敵に自ら投降、軍からの脱走、命令違反、戦闘拒否を行った場合、これまで最大禁固5年だったが、最大15年になる。
また、略奪行為で有罪判決を受けた者は最大15年の刑に罰せられる。略奪に関してはこれまで散々行われおり、士気を高めるため有名無実化している可能性もあり、対外的な厳罰化のようにも見える。
ウクライナに派遣されているロシア兵は士気が低く、戦闘拒否、命令違反が頻発しているとされる。彼らの多くは若く、生活のために貧困地域から志願した者も多いとされる。またロシア人男性は18~27歳の間に1年間の兵役義務があり、この兵役義務期間中にウクライナの前線に送られていたことも明らかになっている(拒否すれば最大2年間の禁固刑に課せられる可能性がある)。そんな彼らがいきなり熾烈を極める本物の戦場に送られてまともに戦えるわけがなく、逃げ出すのもいたし方ない。今回の動員、プーチンはスキルに見合った人を招集すると国民への発表の場で述べたが、動員に反対する抗議デモで逮捕された者が軍にそのまま徴収されたとの報道も出ている。
召集兵は時間稼ぎのための捨て駒
These are the indicative estimates of Russia’s combat losses as of Sept. 18, according to the Armed Forces of Ukraine. pic.twitter.com/Yq9rQtMdQo
— The Kyiv Independent (@KyivIndependent) September 18, 2022
ロシア軍には侵攻前100万人規模の兵力がいたとされ、内15~20万人がこれまでウクライナに投入されたとされる。ロシアのショイグ国防相は21日、3月以降発表していなかった、これまでの戦闘での戦死者を5937人と発表した。ウクライナ国防省の発表によれば、ロシア軍の戦死者の数は5万人以上とされ、米英でも数万人が戦死したと推測している。戦死者にはドネツク、ルガンシクの親ロシア派民兵、ロシアのPMCワグネル、チェチェン人民共和国の兵士も含まれているので、全てがロシア軍正規兵というわけではないが、それでもロシアとウクライナ側の乖離は大きい。そもそも、ロシア軍は戦死者、負傷者を戦場に置いて逃げており、行方不明者の方が多いのではとも揶揄されている。負傷者は通常、戦死者の数倍はいると考えられるが、戦死者がロシアの言う通りであれば、負傷者を含んでも兵力の大部分は残っているはずで、予備役を動員する理由はない。ウクライナの発表通りであれば、既に半分以上の戦力を失っていることになり、動員の理由が付くし、投入したとされる兵士の倍となる数を招集することから、その損耗率が高いことが目にとれる。
ウクライナに傭兵を送り込んでるロシアの民間軍事会社ワグネルにおいても人員不足は同様で彼らは囚人に恩赦付き募集をかけ、僅か1週間で訓練を行い戦線に送ったされるが、案の定大多数が死亡したという報道もある。今回の予備役招集も軍務経験があるとのことで最小限の訓練でおそらく戦線に送られることになるだろう。しかし、そんな彼らが戦況を覆すほどの戦力にはならないだろうと西側の軍事アナリストたちは見ており、目的は時間稼ぎで冬まで戦線を維持するための捨て駒だろうと見ている。冬になればエネルギー問題が再燃し、西側のウクライナへの支援が滞るとみている。失った兵器も多少は回復できる。ただ、これまで、ロシアの筋書き通りに行ったことは少なく、今回の動員は国民の反発も大きく、内側から崩れるきっかけになるかもしれない。
Source
https://www.washingtonpost.com/world/2022/09/21/putin-speech-annexation-ukraine-russia/