ウクライナ海軍司令部は、ロシア占領下のクリミア半島に駐留する最後の黒海艦隊の艦艇が半島を後にしたことを報告した。これはロシア海軍艦艇がクリミア半島全域から撤退したことを意味する。
ウクライナ海軍は15日、最後まで残っていた黒海艦隊の艦艇がロシア占領下のクリミア半島を出発したと発表した。クリミアに残っていた船は1980年代に就役したクリヴァク型フリゲート艦とされ、黒海艦隊には2隻が配備されている。同艦はおそらく、クリミア半島以外の場所に移動することになると思われる。黒海艦隊は2014年にクリミア半島に侵攻、占領して以降、東部の軍港セヴァストポリに司令部を置き、クリミア半島を拠点に活動してきたが、ウクライナ軍の度重なる反撃により、主要な大型艦を失うなど少なくとも27隻を失い、戦力の約3割を消失。最近ではウクライナ供与された短距離弾道ミサイルATACMSによる攻撃がクリミア半島全域に拡大しており、今年5月にはカラクルト型コルベット艦「ツィクロン」がATAMCSの攻撃によって破壊された。この艦は巡航ミサイルを搭載したクリミアに残る最後の攻撃能力を持つ艦艇と言われていたが、ウクライナ侵攻では一発もミサイルを発射したことが無いと言われており、戦力にカウントされておらず、なにかしらのトラブルを抱えていた可能性がある。最後に撤退したクリヴァク型フリゲート艦ももしかしたら同様かもしれない。つまり、5月時点でクリミアに残る黒海艦隊は攻撃能力を失っていた可能性が高く、損害が増え続けた事で、同島からの完全撤退を余儀なくされた。
2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻。ロシア海軍黒海艦隊は黒海から巡航ミサイルを発射し、ウクライナの主要軍事施設を攻撃。黒海の要衝スネーク島を占領するなど黒海を掌握。その後、黒海・アゾフ海に面する南部のヘルソン、ザポリージャ州の占領にも貢献する。ほぼ、海軍が機能していなかったウクライナ軍は当初、この黒海艦隊に対抗する術がなかった。そこでウクライナ軍は艦艇同士による海戦ではなくドローンや無人機、ミサイルによる長距離攻撃に切り替える。2022年4月には黒海艦隊の旗艦であるミサイル巡洋艦「モスクワ」を無人機で偵察、陽動し、国産の巡航ミサイル「ネプチューン」で撃沈する。また、世界で先駆けて、無人艦隊を創設。無人自爆艇の遠隔操作によって、洋上を移動する黒海艦隊の揚陸艦やフリゲート艦など、大型艦を次々と撃沈した。攻撃は海上からだけではなく、イギリス、フランスから射程250kmの空中発射型巡航ミサイルを受け取ると、空からの攻撃を実施。これは主に港に停泊する静止目標を攻撃するのに利用された。これらの攻撃は昨年後半から続いており、黒海艦隊はたまらず、主要艦船を本拠地であるセヴァストポリから退避させ、クリミアの東側やクリミアに近い、ロシア南東部のクラスノダール地方のノヴォロシースクに移動させた。
しかし、アメリカが今年に入り、これまで提供を控えていた射程300kmのATACMSの提供を開始。これにより、クリミア半島全域が攻撃対象となると、飛行場やレーダー、防空施設と軍事施設が壊滅的な打撃を受ける。そして、5月にはカラクルト型コルベット艦がATACMSによって破壊され、同じく同月にはクリミア半島の西側ケルチ海峡にあるフェリー乗り場が攻撃され、ロシア本土とクリミア半島間の物資輸送を担っていたフェリーが破壊、海上補給線が絶たれている。黒海艦隊はウクライナ侵攻時、13隻の大型揚陸艦を配備していたが、7隻を攻撃によって、撃沈ないしは損傷して運用不可能になっている。クリミアに軍事物資を届ける揚陸艦は度々ウクライナ軍の標的になっており、現在、容易にクリミアに近づけることができなく、そこで、ロシアは民間のフェリー船を補給に使用していたが、それも狙われた形だ。クリミアの防空レーダー、ミサイル施設はことごとく破壊されており、防空能力はかなり低下しており、ミサイル攻撃を受ければひとたまりも無い。
黒海艦隊はセヴァストポリといったクリミアの拠点を捨て、現在、ロシア本土のノヴォロシースクに拠点を移している。しかし、ここも過去、ウクライナ軍の自爆無人艇の標的になり、大型揚陸艦を失っている。