ロシアのクルスク地方に進軍するウクライナ軍。停滞、劣勢な国内戦線とは異なり、ロシア領内では破竹の勢いで侵攻、制圧地域を広げている。その要因の一つがロシア国内に残るロシア軍兵士の士気と規律の低さと言われている。
ウクライナ保安庁(SBU)の特殊部隊がロシアのクルスク州で102人のロシア兵を捕虜にとったpic.twitter.com/dymYwgnKDk
— ミリレポ (@sabatech_pr) August 15, 2024
ウクライナ軍は14日水曜日にロシア兵102人が投降し、捕虜になったと発表した。その様子は動画でも伝えられている。報道によれば場所はクルスク内にある要塞化された基地だったが、迫るウクライナ軍を前に司令官が部下を見捨て逃亡。指揮官を失った兵士は続々と降伏した。兵士たちはロシア軍の第488親衛自動車化歩兵連隊とチェチェン特殊部隊の隊員だったという。今月6日に始まったウクライナ軍のロシア領内への越境攻撃以降、ロシア兵が投稿する様子が多数投稿されている。
ロシア兵が投降する様子はロシアによるウクライナ侵攻開始からほどなくして多数報告された。ロシア軍はウクライナ侵攻時、その目的をほとんどの兵士に伝えていなかった。当時、ウクライナ国境周辺ではロシア軍が大規模軍事演習を行っており、兵士たちはその一環と思いロシアが言う「特別軍事作戦」に参加。しかし、ウクライナ軍の反撃を受け、これが戦争と分かり、多数の死傷者が出ると末端の兵士たちは続々と投降した。兵士の中には兵役義務で徴兵された訓練不足の若い兵士も多数含まれており、泣きながら親に連絡する者もいた。本来、彼ら若い徴収兵は戦闘に参加させない決まりで、プーチン大統領も当初、徴収兵の参加を否定したが、派兵されていた事を後で認めている。ロシアは年2回、春と秋に徴兵を実施。2023年、2024年の徴兵では毎回10万人以上が徴兵されている。しかし、家族からの反発が多かったこともあり、プーチンは兵役で徴兵された兵士をウクライナの軍事作戦に参加させないことを約束している。
ウクライナの前線には職業軍人、志願兵、予備役および囚人兵が送られ、訓練が不十分な徴収兵は国内の国境警備などに回されている。ウクライナの前線で戦う部隊は規律が厳しいとされ、投降や逃亡を防ぐためソ連時代に活用された督戦隊が配備されている噂もあり、当初の頃に比べると投降する兵士は少なくなっている。それに対し、ロシア国内にいるのは若く訓練も浅い徴収兵がほとんど。士気が低く、おそらくほとんどの兵士は実戦経験がない。それに対し、ロシアに侵攻したウクライナ軍の中には過酷な戦場を渡り歩いてきた精鋭部隊も含まれており、新参兵も西側で数か月間に及ぶ軍事訓練をみっちり受けた上で配属されている、なにより侵攻を受ける国として兵の士気は高い。また、ロシア軍の主力兵器のほとんどはウクライナの戦線に投入されており、国内には最低限の兵器しか配備されていない。それに対し、ウクライナ軍は戦車や自走砲はもちろん、マルダーとストライカーの両歩兵戦闘車、AS90自走榴弾砲、HIMARSといった多数の西側製兵器を投入している。これらの時点で結果は見えており、多くのロシア兵が敗走、投降した。少なくとも300人以上のロシア兵が捕虜としてウクライナの収容所に収容された。
ロシア・クルスク州で放棄されたロシア軍のT-80BVM戦車を鹵獲するウクライナ軍のSOFチーム
— ミリレポ (@sabatech_pr) August 16, 2024
戦車は稼働できる状態でウクライナまで操縦して回収した
味方に攻撃されないよう戦車にウクライナ国旗を持っていくのが確認できるpic.twitter.com/kvpA7ZrRWU
敗走する際も車両をそのまま放棄しているのが確認されている。ロシア軍が投入する戦車としては最も新しいT-90MやT-80シリーズの最新アップグレード版で2023年に発表されたばかりT-80BVMが無傷、稼働できる状態でウクライナ兵が鹵獲する様子が複数確認されている。
これらの現象はウクライナ侵攻の初期にもみられたが、当時はロシア軍の兵站が機能しておらず燃料切れや故障で放棄されるケースも多々あったが、今回、ウクライナ兵が放棄された車両をそのまま運転し、ウクライナ領内まで運ぶ様子が確認されている。つまり、ロシア兵は乗って逃げることもできた筈なのに、車両を捨てて逃走したのだ。
ロシアのクルスク州への侵攻を続けるウクライナ軍は、セイム川にかかる戦略的に重要な橋をHIMARSで破壊した。これによりロシア軍の兵站及び進軍を遮断
— ミリレポ (@sabatech_pr) August 17, 2024
ロシア領内の制圧地域を広げるウクライナだが、ロ軍も東部ドネツクで進軍を続けており、2つの都市の住民に避難指示がでたpic.twitter.com/Jt0ZkgQhAv
ロシア軍の士気の低さ、戦力不足もあり、ウクライナ軍は侵攻から1週間ほどで、東京都23区の面積の1.5倍にあたる1000平方キロメートルを制圧した。しかし、この快進撃もここまでであろう。第二次大戦以降、初めて国内を攻め込まれ、占領を許す事態にプーチン大統領もお冠でロシア軍は東部や南部に投入している正規部隊をクルスク州に移動させている。ウクライナ軍もこれ以上の進撃はあまり考えていないようで、ロシア軍の進路を絶つために主要な橋を破壊するなど、制圧した地域の防衛、拠点づくりを始めているとされる。また、ゼレンスキー大統領は18日、クルスク州を侵攻した目的ついて、「緩衝地帯を作ること」と初めて明言している。ロシア軍は今年5月、2022年9月に撤退していたウクライナ北部ハリキウ州に越境攻撃を開始したが、ロシア側もこの目的を「緩衝地帯を作ること」と述べていた。