3月22日金曜夜、ロシアの首都モスクワ郊外のコンサートホールが、武装集団の攻撃を受けて130名が死亡するというテロ事件が起きた。その後、イスラム国が犯行声明を出したが、プーチン大統領はその後の国民に向けた演説でテロリストの背後にウクライナがいると発言した。この発言を受けて、今回のテロはかつてプーチンが行ったとされる偽旗作戦の疑惑が上がっている。
Russian media report a shooting accident in Krokus City Hall before a concert.
— Anton Gerashchenko (@Gerashchenko_en) March 22, 2024
Reportedly, three camouflaged persons started shooting at people. About 50 people are reported dead, over 50 injured.
A large fire started, and the roof is starting to collapse – Russian media. pic.twitter.com/NRxv3HU3gF
今回のテロの首謀者はイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」とされており、SNS上で「ISの戦闘員はモスクワ郊外に集まる多数のキリスト教徒を攻撃して数百人を殺傷し、避難する前に破滅をもたらした」犯行声明を出したと報じられている。声明通りであれば攻撃理由は宗教的な対立だが、ISにはロシアでテロを行う同機がある、ロシアは中東シリアのアサド政権を支援するとして2015年からシリア紛争に軍事介入、シリア軍と協力してIS掃討作戦を実施するなど戦闘を繰り広げており、ロシアとISは敵対関係にある。犯人グループは犯行後逃走したが、その後、ロシア当局は実行犯4人を含む11人を逮捕したと発表している。
アメリカはロシアにテロの危険を共有していた
今回のモスクワのテロについて、米国は事前に察知、ロシアに情報を共有していたがプーチン大統領は3日前にその警告を「あからさまな脅迫」と糾弾
— ミリレポ (@sabatech_pr) March 23, 2024
「私たちの社会を脅迫して不安定化させようとしている」と述べたとTASS通信も報じている。https://t.co/N6eLtg0SVwpic.twitter.com/b3bgLmdekk
首都モスクワで大規模なテロを許してしまった事に対し、当局に批判が集まっているが、今回のテロに関して、アメリカは事前にテロの危険が迫っていることを察知、自国民にコンサートホールなど人が集まる場所に行く際は注意するよう周知すると共に、ロシアにも2週間前からテロ情報を共有していたといわれているが、プーチン大統領はテロの3日前のその警告を「あからさまな脅迫」と糾弾、「私たちの社会を脅迫して不安定化させようとしている」と述べたと国営メディアのTASS通信も報じている。アメリカのカービー報道官は共有した情報と今回のテロはイコールではないと否定しているが、プーチンの発言からロシア当局がテロの警戒を怠っていたのは事実であろう。実際、警察のスペツナズ(特殊部隊)が現場に到着したのは事件が起きてから1時間30分後と言われており、もちろん、既に犯人グループはいなかった。遅れた原因は市内の渋滞と言われているが、なぜ、ヘリコプターを飛ばせなかったのかと批判されている。そもそも、現在、戦時中であり、ウクライナの自由ロシア軍が越境してロシア領内を攻撃している中、首都であるモスクワが大規模なテロ攻撃を受けたことは治安当局は批判されるべきであろう。
テロの裏にはウクライナがいると批判
プーチンは国民に向けた演説で「(モスクワの)テロリストらはウクライナ方面に向かっていた。そこでは彼らのために窓口が用意されていた。テロリストの背後にいる者をそれぞれ厳しく処罰する」と述べた
— ミリレポ (@sabatech_pr) March 23, 2024
案の定、そういう方向に持っていったか。チェチェン紛争の再現かpic.twitter.com/xcFh1VHVmh
当局は拘束された犯人の一人が当局側の尋問に「50万ルーブル(約82万円)の報酬を約束されてテロ事件を起こした」と証言した事を報告している。つまり、ISの戦闘員ではない可能性を示唆している。ISはしばしば、違う組織が起こした事件に乗っかることがあるので、今回のテロも犯行声明を出したからといって必ずしもISISの犯行とは限らない。しかし、先も述べたように動機はある。また、は実行犯4人の顔写真を公開。更に実行犯はロシア軍の最新小銃であるAK-12ライフルの初期型を持っていたとされる。AK-12の開発が始まったのは2011年になり、テストが完了したのは2017年。2018年から配備が始まり、現在はウクライナでも使用されているが、初期型は希少でありAK-12は開発当初、シリアで実戦テストを行っており、その際に何かしらの経緯でISに渡った可能性はある。
しかし、プーチンは今回のテロを受けて22日に国民に向けた演説を行い「テロリストらはウクライナ方面に向かっていた。そこでは彼らのために窓口が用意されていた。テロリストの背後にいる者をそれぞれ厳しく処罰する」とテロの背後にウクライナがいると発言した。何とも荒唐無稽な発言である。ウクライナが一般人が集まるコンサートホールを襲わせる理由がない。また、戦争中の両国、ロシア、ウクライナ両軍の前線を突破してウクライナの担当者と会うのは無理があり、それができれば、彼らは特殊部隊なみの手練れである。
プーチンの偽旗作戦
今回のプーチンの荒唐無稽な発言で思い起こさせるのが1999年の第二次チェチェン紛争だ。1990年代、ロシア連邦からの独立を目指すチェチェン共和国が武装蜂起、ロシアと戦闘を繰り広げていた。そんな、1999年の8月から9月にかけて高層アパートが連続して爆破される事件が発生。300人以上が犠牲になったこの事件を当時首相だったプーチンはチェチェン独立派の仕業と断定。世論の支持を受けて大規模な地上侵攻に踏み切り、第二次チェチェン紛争が勃発。チェチェンを完全制圧し、この功績によってプーチンは翌年、大統領にまで上り詰めた。しかし、その後、この爆破事件がチェチェン侵攻を正当化させるためのロシア連邦保安庁FSBによる自作自演だと複数のロシアメディアが報じた。そのため、今回のモスクワでのテロもウクライナへの国民の敵意を煽るプーチンの自作自演。またはテロを阻止できなかった事の責任転換、察知していたが、あえて起こさせ、どちらにしても背後にウクライナがいるようにする事で、国民の反発をウクライナに向け、危機意識を与え、国家総動員をかける布石にするのではと危惧されている。爆破事件に関してはそれを告発した元KGB、調査していた国会議員、ジャーナリストが全て何者かに殺害されている。