アメリカのバイデン大統領は19日、同盟国がウクライナにF-16戦闘機の供与及び、パイロットへの操縦訓練を行うことを容認する考え示しました。Mig-29、Su-27といった旧式のソ連製戦闘機で揃えていたウクライナ空軍はF-16の供与により、大幅に強化されることになります。ゼレンスキー大統領はロシアの航空戦力に対抗するためには200機の戦闘機が必要と述べています。F-16は何機が提供され、どこの国が提供できるのでしょう。
F-16 ファイティングファルコン
F-16はアメリカのジェネラル・ダイナミクス社によって1970年代に開発、1978年に運用が始まった冷戦期の第4世代多用途戦闘機です。小型で軽量、機動性に優れ、多用途にわたる戦闘任務に対応できる特徴を持っています。空対空戦闘、対地攻撃、偵察など、さまざまな任務に適応することができ、特に、高い機動性と優れたエンジン出力により、空中戦において優れたパフォーマンスを発揮します。価格が安く、ライセンス生産もされたこともあり、これまで延べ4,500機以上が製造され、現在でも25カ国、2000機以上が運用されており、この数は戦闘機別では最多です。数からみれば、200機と言う数は提供できない数ではありませんが、対象となる国はアメリカとその同盟国、特にNATO加盟国に限られます。NATO各国の状況はどうなのでしょうか。
オランダ
オランダは今年1月にドイツのラムシュタインで開催された米国主導のウクライナ防衛会議でウクライナが要求すれば16機の提供を検討すると表明しています。具体的な提供意志を示したのはオランダが初です。オランダ空軍のF-16は同国の航空機メーカーであるフォッカー社が1979年~1992年にかけて、213機を製造し、同軍に納入しています。しかし、現在の主力戦闘機の座はF-35Aに譲っており、F-16は退役が進んでおり、国外に販売されています。その内40機が民間軍事会社でパイロットの訓練を提供するドラケン・インターナショナルに売却される予定でしたが、その内28機がキャンセルされたという情報があります。オランダ空軍に残っている機体は20機を超える程度で、そのほとんどをウクライナに提供する形です。
デンマーク
デンマークはウクライナ人パイロットへの操縦訓練の支援を行う事を既に表明していますが、機体の供与については、まだ言及していません。デンマーク空軍は2027年までに27機のF-35の配備が完了する予定で、2024年からF-16を順次退役させる予定で、43機ある機体のうち16~24機を売却することを計画、トルコやアルゼンチンが興味を示していました。しかし、ロシアの脅威が高まったことで、昨年、F-16の運用を延長することを決定しています。もともと、退役予定で対ロシアという観点で提供される可能性は高いと思われます。
ベルギー
ベルギーはNATO加盟国で一番最初にF-16を導入した国で、F-16に関して豊富な知識と経験を持っています。すでにベルギーはその知識と経験をウクライナ人パイロットに与えることを表明しています。ベルギー空軍は約50機のF-16を保有していますが、後継に34機のF-35Aの導入が決まっており、今後、順次退役していく予定です。しかし、機体の供与に関しては今のところ「航空機は提供できない」とアレクサンドル・デ・クルー首相は述べています。
ポルトガル
ポルトガルはウクライナ人パイロットとエンジニアに訓練を提供することを表明しています。機体の供与については言及はありません。ポルトガル空軍は主力戦闘機として約30機のF-16を運用しています。
ポーランド
ポーランドはMig-29戦闘機をウクライナに供与していることもあり、他のNATOに対してはF-16の供与を呼び掛けています。しかし、自国のF-16に関してはまだ、判断を決めかねています。ソ連製戦闘機から脱却を図っている現在、ポーランド空軍の主力戦闘機は50機ほどあるとされるF-16です。32機のF-35、48機の韓国製のFA-50軽攻撃機の購入を決めていますが、納入されるのはまだ先であり、それまではF-16が防空を担うことになり、「F-16の供与は重大な決断で簡単ではない」とアンジェイ・ドゥダ大統領は述べています。提供できても数機のみと思われます。アメリカがもし、損失分を補填してくれるようであれば、数は増えるかもしれません。
ノルウェー
ノルウェー今のところ、ウクライナへのF-16の供与ついて議題に上がっていないと述べています。ノルウェー空軍は最大72機のF-16を保有していましたが、2022年までに全機退役しており、30機のF-35Aが主力戦闘機の座に就いています。退役したF-16の半分以上は既に売りに出されており、32機がルーマニアに売却、12機が米空軍に訓練を提供する民間軍事会社に売却されていますが、最大30機程はまだ残っているとされます。既に退役済の機体ということで、提供に関して戦力的に問題はありません。
アメリカ
F-16の生産元であるアメリカは世界最大の運用国であり、現在でも約1000機を運用しています。しかし、アメリカは今のところ同盟国がF-16を供与することを支援はしますが、今のところ機体を供与する意志はありません。F-16は米空軍の中でも最も数を占める機体ですが、F-35の導入が進む中、機体数は余剰であり、毎年、数十機が退役、数百機が予備役として眠っています。最大600機を近代化改修し、2050年頃まで運用する計画であり、それ以外は余剰戦力と言ってもいいでしょう。ロシアへの刺激を避けるため、供与を控えていると思われますが、供与する国に、損失分を補填する間接的な支援は可能と思われます。
トルコ
トルコはアメリカ、イスラエルに次ぐF-16運用国で、200機以上のF-16を保有していますが、提供の可能性は低いでしょう。アメリカの関係悪化で次期主力戦闘機として購入予定だったF-35の調達が難しくなった上、F-16の多くが老朽化や機体寿命を迎えています。最近、ようやくアメリカとの関係改善兆しがあり、アメリカはトルコが保有するF-16の最新ブロックへの改修を容認する動きを示していますが、提供する余力はないでしょう。また、NATOの中ではロシアと関係が良好であり、ロシアへの配慮もあるかもしれません。
イギリス、カナダ、フランスはF-16を保有していませんが、高度なパイロット訓練のノウハウを持ち合わせており、西側戦闘機の操縦訓練をウクライナに提供します。