アメリカ海軍やロシア海軍の攻撃型原子力潜水艦が北極海の海氷の下から浮上する光景を映画やアニメなど見たことはないでしょうか。あれは実際の任務や演習でも行われいるのですが、なぜ、わざわざ硬い氷がある場所選んで潜水艦を浮上させるのでしょうか?
氷の下に隠れているから
北極圏はアメリカをはじめとしたNATOと大国ロシアが隣接する軍事的要衝です。最近では温暖化により海氷が減ったことによる、新しい航路の開拓、天然資源開発の場として注目されており、両国ともに軍事的プレゼンスを強化しています。ここは以前から両国ともに頻繁に弾道核ミサイル搭載可能なミサイル原子力潜水艦を配備しています。
互いの監視の目が厳しいこの地では潜水艦は海氷の下を移動、留まるようにしています。潜水艦は隠密性が命です。海氷は潜水艦を隠蔽し、敵の人工衛星と航空機、潜水艦から艦を見えなくします。厚い氷によって上空から見つけることは困難であり、潜水艦や船のソナーと音響監視は海氷とそのきしむ音によって邪魔されます。
ずっと、海氷下に留まれば見つかることは無いのですが、通信やミサイル発射演習、補給を受けるためにはどうしても浮上が必要になります。その時も少しでも隠密性を維持するため、潜水艦は海氷をそのまま突き破って浮上します。分厚い海氷はいわば陸地でもあり、補給や船員のリフレッシュをする上でも海氷の方が何かと便利な側面もあります。
突き破る氷の厚さは60~90cm
しかし、どこからでも有情できるわけではありません。北極圏の海氷の厚さの平均は3~4m、場所によっては20mにもなります。このような場所に浮上させれば、軍用潜水艦とはいえ損傷する恐れがあります。そのため、浮上する際はソナーや各種センサーを使って、氷の厚さや形状を識別、比較的薄いところを定めて浮上させます。米海軍の演習では60~90cmの厚さの場所を選んで浮上、最大2.5mの厚さまで浮上可能としています。
浮上する方法
浮上する場所を見つけたら艦を停止させホバリング、艦の上部セイルが海氷の底に接するところまでゆっくり慎重に垂直浮上させます。次にバラストタンクに空気を注入して浮上させますが、この時、氷を砕くために一定の速度と勢いを持たせます。セイルの上部分は厚い氷を破壊、突破しても損傷しないように強化保護されています。
海氷を砕く浮上を初めて行ったのは1958年の米海軍とされており、以後、米海軍ではこれをアイスエクササイズ(Ice Exercise:ICEX)と呼び、北極圏での演習では定期的に海氷浮上を行っています。2021年3月にはロシア海軍の原子力潜水艦が3隻同時に浮上する映像を公開して話題になりました。