スウェーデン国防省は次期軍用輸送機としてブラジルの航空機メーカーであるエンブラエル社が開発生産するC-390ミレニアム輸送機を選択した。一方、ブラジルはスウェーデンのSaab社が開発生産するJAS39グリペンE/F戦闘機の追加発注を決め、両国間で強力な軍事産業同盟が結ばれた。
スウェーデン国防省はポール・ジョンソン国防相が9日土曜、空軍の老朽化した米国ロッキード・マーティン社製のC-130Hハーキュリーズ輸送機の後継としてブラジルのエンブラエル社が開発生産するC-390ミレニアム輸送機を購入する意向書に署名した事を発表した。金額や機数などは明かされていないが、スウェーデン空軍のC‐130の保有数が5機と考えると、C-390の調達数も5機と考えられる。
一方、ブラジルのホセ・ムシオ国防相も同じ機会に別の意向書に署名した。スウェーデンはブラジルがJAS-39グリペンE/F戦闘機の数を今の発注数から25%増やす計画であると述べた。ブラジルは2014年に36機のグリペンを発注しており、この25%というと、9機の追加を意味する。ブラジルはスウェーデンとサーブ社との契約に基づき、国内でライセンス生産している。「航空宇宙協力はスウェーデンとブラジル両国にとって重要だ。新たな意向書は、この協力をさらに深めるための基盤となる」とスウェーデンのジョンソン国防相は声明で述べた。
C-390ミレニアム
C-390ミレニアムは中型の双発ジェットエンジン軍用輸送機になり、エンブラエル社は同機を比類のない機動性、高い生産性、運用の柔軟性を、単一の独自の最新プラットフォームで低い運用コストで実現する新世代の軍用多目的航空機と謳っている。中型輸送機市場に焦点を当て2010年代に設計開発、2019年に初めてお披露目され、同年ブラジル空軍に納入されている。現在、世界で最も売れている中型輸送機である米国ロッキード・マーティン社のC-130シリーズのシェアを脅かす機体であり、ポルトガル、オランダ、オーストリアがC-130の後継として採用している。この他、チェコ、ハンガリーといったNATO加盟国や韓国など米国の同盟国の間でも採用が広がっている。「C-130のジェット機版」、「C-130の3倍の性能がある」などと評価され、既に40機を受注するなど近年、良好な販売実績をあげている。
スペック
C-390は兵員、要人、貨物の輸送など従来型の軍用輸送機としての運用の他、空中給油機としても運用できる。貨物に関してはM113装甲兵員輸送車であれば2両、またはボクサー装甲車1両、シコルスキーUH-60ヘリコプター1機、生命維持装置を積んだ担架74個、完全装備の兵士80名または空挺兵66名など、最大26トンの積載が可能で、最大19トンの積荷を空中投下することができる。最高速度988km/h、巡航速度870km/h、航続距離は5020km。これらの性能はC-130を上回る。コストは1ユニットあたり1.4億万ドルから1.6億ドル。C-130の最新モデルC-130Jの価格が2億ドル前後とされるので、価格も手ごろで性能も上だ。
JAS39グリペンE/F
グリペンはカナードとデルタ翼の組み合わせであるクロースカップルドデルタ形式を特徴とした第4世代戦闘機。1988年に初飛行、1996年にスウェーデン空軍で最初のモデル”グリペンA/B”の運用が始まっている。その後、電子機器をアップデートしたC/D、そして、最新のアビオニクス、エンジンを改修して、スーパークルーズを可能にした最新モデルE/Fが2018年に登場している。グリペンの最大の魅力は他の第4世代以上の戦闘機に比べてサイズが小さく低コスト、メンテナンスがしやすいこと。500mあれば離発着でき、直線道路での離発着も容易と場所を選ばない。その上、電子戦、機動力といった単純な戦闘機としての性能も高いことだ。マッハ2の最高速度とスーパークルーズ能力、航続距離は2,500kmと能力は申し分ない。しかも1機あたりのコスト4000~6000万ドルはF-35の約半分であり、1時間当たりの飛行コスト5,800ドルはF-35の7分の1しかない。そのため中堅国に人気でブラジルの他、タイ、南アフリカなどが主要な採用国になる。コロンビアがグリペンの採用を検討しており、今回のブラジルの追加発注は追い風になるかもしれない。