戦争になれば真っ先に狙われるのは軍事基地であり、特に指揮系統を混乱させるため司令部や指揮所が揃う基地が狙われる可能性が高い。そのため、重要な指揮機能は昔から地下シェルターに設けるなど通常のミサイルや爆弾では破壊できない場所に設けられてきた。実際、日本の防衛省の地下3階には「地下指揮所」がある。重要軍事施設は強固に保護されているわけだが、その中でも最も強固な軍事基地と言われているのがアメリカ宇宙軍の「シャイアン・マウンテン宇宙軍基地」になる。
山に掘られたNORADの司令部基地
シャイアン・マウンテン宇宙軍基地はアメリカ中部コロラド州エルパソの標高2920mの山を掘って建設された基地になり、最初は「NORAD」の司令部基地だった。NORADとはアメリカ軍とカナダ軍によって運営されている”北米航空宇宙防衛軍”になり、宇宙空間および領空、防空識別圏の監視。人工衛星、レーダー網の運営、世界中の弾道ミサイルや核ミサイルの発射警戒を行っており、北アメリカの安全保障の中心的組織で地域一帯の防空を担う部隊になる。これが攻撃され、機能不全になれば、北アメリカの防空網は壊滅的な打撃をうけることになる。
ソ連との冷戦下の1950年代。核兵器、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発競争が過熱、核戦争が現実味を帯びる中、ソ連のICBM、戦略爆撃機を監視、警戒するための組織として1958年、アメリカとカナダはNORADを創設。当初、司令部は地上に設置されるものの、攻撃に対して脆弱として司令部をより強固な地下に移すことにする。そこで内陸に位置し、ピーターソン空軍基地に近く、岩盤も固くて地震が少ないコロラド州エルパソのシャイアン山に新しい司令部を建設することを決定。1961年、陸軍工兵隊によって建設が始まり、3年をかけて建設、1967年2月にNORADの司令部として運用を開始した。
世界一丈夫な基地
シャイアン・マウンテン空軍基地は最も丈夫で強固な軍事基地と言われおり、その理由はいくつかある。
基地の主要施設は鉱物の中でも形といわれる花崗岩の地下610mに建設されている。
施設には計1.6Kmにもなる6つのトンネルがあり、各トンネルの高さは3階建ての建物に匹敵。内部には2,3階建ての15の建物が存在する。
生物化学兵器、放射脳の汚染物質を検知、除去するための独自のフィルターを備えた空調システム
厚さ約1m、重量25トン、閉じるまでに45秒かかる爆発の圧力に耐えるブラストドアを有する。冷戦終了後はこのドアは緊急時のみに閉められことになっており、閉じられたのは9.11同時多発テロの時のみになる。
9.5mmの軟鋼板の外殻は、内部の鉄骨フレームで支えられているが、爆風など圧力によって、建物が破壊されないよう、スプリングが使用され、一定の衝撃を吸収する。
これらの強固な設計により30メガトン級までの核爆弾が2km圏内で爆発しても爆風に耐えることができ、かつ、電磁パルス(EMP)攻撃に対しても有効で、核爆発時におきる電磁パルスにも影響されないので、基地機能は問題なく継続される。基地内には大統領や政権幹部用のスイートルーム、独自の発電所、冷暖房システム、および給水設備、豊富な水と燃料、食料が備蓄されており、外界と遮断されても、ある程度の期間、ここで過ごすことが可能だ。
現在は宇宙軍基地に
NORADの司令部として運用が始まった同基地も冷戦が終わりソ連の核攻撃の脅威が少なくなると、地中深くに建設された基地は非効率でしかなかった。そこで2006年にNORADの司令部は近くのピーターソン空軍基地に置かれ、その後は空軍宇宙軍団の管理下でいつでも稼働できる状態で保管状態に置かれる。しかし、2015年に米空軍はシャイアン・マウンテン空軍基地を再稼働することを決定する。理由はEMP攻撃から精密機器を守るためで、ピーターソンに置かれたいた精密機器類をシャイアン・マウンテンに移動させた。その後、2020年にアメリカ宇宙軍が創設されたことで、空軍宇宙軍は宇宙軍に移行。 現在、シャイアン・マウンテンは宇宙軍の管轄下となっているが、NORADとアメリカ北方軍(USNORTHCOM)が基地の床面積の30%を占めており、有事の際はNORADとUSNORTHCOMの地下司令部として機能することになる。
Source
https://www.norad.mil/About-NORAD/Cheyenne-Mountain-Air-Force-Station/