欧州各国で進むスイス兵器離れ、中立国の兵器は有事の際は使えない

欧州各国で進むスイス兵器離れ、中立国の兵器は有事の際は使えない
Swiss army

欧州の一部の国でスイス製兵器の購入を控える動きが出てきていると報じられている。理由はスイスの中立性だ。ロシア・ウクライナ戦争でも、その中立的な立場から、ウクライナへの支援が滞るなど、弊害が出た。

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スイスメディアのスイスインフォは欧州諸国はスイスの中立性に関連した武器制限に憤慨し、スイスからの武器購入を回避したり停止したりする動きが強まっていると報じた。スイス製兵器の最大の買い手の一つであるドイツは、ウクライナへ兵器の移転が禁止された経緯もあり、今後の兵器調達でスイス製兵器の除外を決定したと報じられている。隣国であるドイツとスイスは政治的、経済的に緊密な関係にあり、おおむね同じ価値観を共有。両国は互いの武器、弾薬、その他の軍用品の最大の買い手でもある。しかし、ドイツのスイスに対する信頼はある事で崩れていた。

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ゲパルト自走砲の砲弾の再輸出禁止

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ドイツは2022年4月にウクライナに対ドローン用の防空兵器としてドイツ連邦軍内で全数退役していたゲパルト対空自走砲の供与を決定した。しかし、いざ、提供するとなるとゲパルト対空自走砲の35mm砲機関砲(エリコンKD 35mm 機関砲)の弾薬のドイツ軍の在庫が6万発しか無いことが分かる。ドイツは当初、15両の供与を決定していたが、分間550発の35mm砲2門を持つゲパルトにそれは全く十分な数ではない。そこで、ドイツは35mm機関砲弾の製造元であるスイスの軍需企業エリコン社に弾薬の輸出を交渉。しかし、永世中立国であるスイスは紛争当事国に関与しないという立場上、例え、ドイツが購入元としても、ウクライナに渡る弾薬の販売を拒否。そこで、ドイツは過去にゲパルトの中古を販売したカタール、ヨルダン、ブラジルに弾薬在庫の提供を交渉。ブラジルが30万発を提供することで合意するも、ブラジルが所有する弾薬もスイス製。これをウクライナに移送するには弾薬の製造国であるスイスの承認が必要であり、またしてもこれをスイスが拒否。結果、ドイツはスイスからの弾薬購入を諦め、ノルウェーの軍需企業、Nammo社と共に独自に弾薬製造に着手。しかし、いざ、開発してみるとエリコンKD 35mm 機関砲に規格に合わなかったりと開発は難航。最終的に量産には成功したが、ウクライナへの供与に時間がかかり、防空網には穴が空いた。現在は、順調に量産化されており、それもあってか、ゲパルトの供与数も増えており、ウクライナにはこれまで35両が納入されている。また、アメリカがヨルダンから60両のゲパルトを購入する予定であり、ウクライナには更に45両が供与される計画だ。ただ、最初からスイスが弾薬を輸出していれば、この計画はもっと早く進んでおり、ウクライナにおける自爆ドローンの被害も少なくなっていたかもしれない。

レオパルト1戦車の再輸出却下

オランダはウクライナに供与するため、スイスの国営兵器会社RUAGが所有する96両のレオパルド1A5戦車の購入を提案した。これはもともとイタリア軍が保有していたもので、売りに出されていたものをRUAGが購入。同社はこれを改修、またはスペアパーツとして第三国に転売する計画だった。そこへ、ロシアによるウクライナ侵攻が始まり、緊急に需要が生じる。RUAG社は当初の計画通り、オランダからの提案を受け入れ転売を了承。オランダが購入し、戦車はドイツの企業に送られ、ドイツで修復改修してウクライナに送られる計画だった。しかし、スイス政府がこれをゲパルトと同様に却下。このケースではレオパルト1の生産元はスイスではなく、購入元はオランダでスイスが納入する先はドイツだが、ドイツがそれを紛争当事国に再輸出する事を認めなかった形だ。

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今回はどちらのケースもウクライナ支援のために第三国を経由した再輸出で、スイスが紛争当事国に直接関与しているわけでないが、それでもスイスが生産元、または所有していた兵器の紛争当事国への再輸出を認めなかった。スイスの法律では、受取国が国際武力紛争下にある場合、すべての再輸出を禁止している。もう一つ懸念があるのが、既存の武器取引国が紛争当事者になった場合、兵器を輸出してくれるのかだ。例えば、ドイツがロシアと紛争状態になった時に、これまでと同様に武器は供給してくれるのか。有事の際に輸入が止まるのであれば、スイス製兵器は使えない。そういう懸念が各国で広がっているのか、ロシア・ウクライナ戦争で各国の兵器メーカーがこぞって過去最高の売り上げを上げる中、スイスの2023年度の武器輸出は、 2022年に比べて27%減少し、7億スイスフラン(7億4600万ユーロ)未満となった。

それもあり、スイスの安全保障政策に関する調査委員会は、1515年以来中立を保ってきたがEUおよびNATOと「共通の防衛能力」の構築に取り組むよう勧告、「再輸出禁止は解除されなければならない」と報告書で訴えた。

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