フランスのマクロン大統領は6月6日、ウクライナに国産戦闘機ミラージュ2000を供与することを発表した。早ければ年内にも供与が実現する可能性がある。
フランスメディアの報道によれば、マクロン大統領は、ウクライナのゼレンスキー大統領の公式訪問に合わせてフランス北部の都市カーンでの放送局TF1のインタビューで「明日、我々は新たな協力関係を開始し、ウクライナの空を守るのに役立つミラージュの移転を発表する」と述べた。この日、フランスではノルマンディー上陸作戦から80周年を記念するイベントが開かれており、ゼレンスキー大統領も招待されていた。
マクロン大統領は今夏からウクライナ人パイロットに向けた訓練を開始するとしており、「通常は5～6か月かかります。ですから、年末までにはパイロットが誕生するでしょう。パイロットはフランスで訓練を受けることになります」と述べた。つまり、7月に訓練を開始すれば、12月には最初のパイロットの訓練が終了することになり、年内にはウクライナでミラージュ2000の運用が可能になる可能性がある。ただ、機数や供与スケジュールなどは明かされなかった。
ミラージュ2000‐5
ミラージュ2000はフランスの軍用機メーカー「ダッソー (Dassault)」社が1970年代に開発した第4世代のマルチロール戦闘機。能力的にはウクライナに供与されるF-16に引けを取らないとされている。1978年に初飛行を行い、フランス空軍の50周年にあたる1984年に初期量産型のミラージュ2000Cがフランス空軍に就役した。2007年に生産が終了するまでに約600機が生産され、インドやUAE、台湾などに輸出されている。フランス空軍には現在約200機の戦闘機があり、第4.5世代戦闘機のラファールが96機、ミラージュ2000が91機とシェアは半分ずつだが、フランス空軍の主力戦闘機はラファールに切り替わりつつあり、ミラージュ2000は徐々に退役が進んでいる。2022年には初期モデルのミラージュ2000Cが全機退役した。現在あるモデルは1990年に登場した戦闘爆撃機タイプのミラージュ2000Dと、同じく1990年代にアビオニクスを改良したミラージュ2000-5になる。2000年にはミラージュ2000Cをアップデートする形でミラージュ2000-5Fが就役している。今回、ウクライナに供与するのは2000-5モデルになる。2000‐5のフランス軍の配備数は26機とされている。
Photo Armée de l'Air et de l'Espaceウクライナはアメリカに対しF-16戦闘機の提供を要求していますが、その陰でフランスが極秘裏にウクライナ軍のパイロット30人にミラージュ2000戦闘機の訓練を行っ[…]
実は昨年3月にもミラージュ2000がウクライナに供与されるという噂があり、フランスでパイロットの極秘訓練が行われているという報道があった。その際、フランスのフィガロ紙は政治的決断がされれば約10機の戦闘機をウクライナ軍に引き渡すことができると報じており、供与数は保有数の半数が現実的なところだろう。フランス空軍のミラージュ2000は2030年まで運用を予定。2022年にはダッソー社と10年間の保守契約を結んでおり、直近の退役予定はない。ただ、ミラージュ2000‐5はギリシャやカタールが売りに出しており、フランスが購入してウクライナに供与する可能性もある。ミラージュ2000‐5の中古市場価格は3000～4000万ユーロとされている。
ミラージュ2000がウクライナに供与されるという噂は度々上がっていたが、F-16戦闘機の供与が決定したことで、そちらを優先すべきとして話は消えたとも言われていた。F-16の方が運用国も多く、一定の数が揃えられ、手厚くサポートでき。F-16の供与には少なくとも7か国が参加しており、70機以上の供与が予定されている。ミラージュ2000の供与に参加できるのはフランスだけであり、供与できる機数も多くはなく、返って、ウクライナの兵站や運用保守体制を複雑化させる可能性がある。実際、同様の理由でグリペン戦闘機の供与を検討していたスウェーデンはF-16を優先させるとして計画を停止している。ただ、その代わりに2機の早期警戒管制機Saab 340 AEW&Cの供与を発表している。フランスがこのタイミングでミラージュ2000の供与を発表した背景は不明だ。まとまった数が供与できる算段がついたのだろうか。ゼレンスキー大統領はロシアに対抗するためには100機以上の高度な戦闘機が必要と述べていたので、それに応えたのかもしれない。
