アメリカのIT大手Googleは自社が運営するGoogle EarthとGoogle Mapsの衛星画像を更新した事でウクライナ軍の最新の軍事施設を公に公開して批判にさらされている。
ウクライナ国家安全保障防衛会議の対偽情報部門責任者アンドリー・コバレンコ氏は11月3日、グーグルが運営する無料の地図プラットフォーム「Google Earth」と「Google MAP」上にウクライナの軍事システムの場所を示す最新の衛星画像が公開されたと報告した。これはウクライナ当局と国民から激しい批判を招き、安全保障上のリスクの可能性を懸念する声が上がった。コバレンコ氏は自身のソーシャルメディアで、問題を早急に解決するためにグーグルに連絡した事を報告。世間の反応を受けて、グーグルの代表者がウクライナ側に連絡を取り、同社はすでに問題の解決に取り組んでいると述べたとされるが、連絡が週末だったこともあり、返答は遅れ、その間、ロシア人はこれらの画像を積極的に流布しているとコバレンコ氏は語っている。
既にグーグルが対応しているのかは不明だが、Google Earthには衛星画像がいつ撮影されたものなかを確認できる機能があり、筆者の方でウクライナの衛星画像を確認してみたが、把握できる限りでは画像はロシアが侵攻を開始した2022年2月より前のものだったので、既に対応された可能性は高い。ただ、既にロシアの協力者たちは公開された画像を収集しているだろう。
交通渋滞のライブ更新を停止
2022年2月24日、グーグルマップ上のロシアのベルゴロドからウクライナ国境までの幹線道路が赤やオレンジで染まった。ナビでグーグルマップを使用している人ならお分かりだと思うが、これは道路の渋滞を示すもの。しかし、その渋滞は一般車両ではなく、40kmに及ぶロシア軍の車列だった。そして、その数時間後、ロシアによるウクライナ侵攻が始まった。グーグルマップは軍の車列の状況さえも表示させてしまう事が分かり、ウクライナ当局の情報筋と協議した結果として、グーグルは2月28日、ウクライナにおける交通状況のライブ更新を停止することを発表している。停止した理由は明かされていないが、軍の行動を秘匿するためなのは明らかだ。
戦局への影響はない?
今回、GoogleMap上に公開された事による、戦局への影響は軽微だろう。ロシアはアメリカに次ぐ宇宙大国である。ロシアは現在、240基の人工衛星を運用中とされ、米国の5,100基や中国の620基に比べればはるかに少ないが、それでも世界3位の数。ロシアは2024年中に100基の衛星を打ち上げると公言している。また、衛星測位システムのGLONASS(グロナス)も運用しており、20機以上の専用の衛星が周回軌道上に配備されている。つまり、グーグルマップに頼ることなく、いつでも高解像度の衛星画像を入手することができる状態だ。グーグルマップで確認できるようなウクライナの最新の軍事施設の情報はロシアはとっくに把握しているであろう。ただ、だからといって、だれでも見れることはよろしくない。旧ソ連であったウクライナ国内には未だ、ロシアへの協力者は多い。
ウクライナは1992年以降に6基の人工衛星を打ち上げているが、ロシアと比較すれば遥かに少なく、偵察能力は大きく劣っていた。しかし、開戦前からアメリカをはじめとしたNATOの支援を受け、侵攻前からロシア軍の動向を把握。それもあって、ロシア軍の最初の電撃戦にも対応できた。ウクライナの衛星からの偵察能力はロシアを大きく凌駕しており、リアルタイムに近い間隔でロシア軍の情報を得る事ができる。そして、精度の高い位置情報を受け取り、火力で劣る中、HIMARSなどによるGPS誘導のピンポイント攻撃で効率性で対抗している。