ロシア大統領府は5月3日未明にモスクワのクレムリンがウクライナの無人機によって攻撃を受けたことを発表しました。飛来した2機の無人機はクレムリンの上空でロシア軍と特殊部隊によって撃墜され、破片が敷地内に墜ちるも怪我人はいませんでした。プーチン大統領もこの時、クレムリンにはおらず無事だと報告しています。ロシア政府はプーチン大統領の暗殺を狙ったウクライナのテロ行為として報復を示唆していますが、ウクライナは攻撃を否定。ロシアによる偽旗作戦、いわゆる自作自演なのではという声も上がってあり、アメリカもその可能性に言及しています。
ウクライナ国境からモスクワまでは450km
ロシア大統領府はクレムリンが無人機によって攻撃を受け2機を撃墜と発表。自爆ドローンのように滑空してるがウクライナ国境からモスクワまでの最短距離が450㎞なのを考えるとロシア国内から放たれたドローンだろうかpic.twitter.com/Il4wIYvbXR
— ミリレポ (@sabatech_pr) May 3, 2023
監視カメラで撮影されたとされる映像から推測するに使用された無人機は小型の固定翼機タイプで、滑空飛行に入っていることから自爆ドローンと推測されます。この手のタイプの自爆ドローンはウクライナも運用していますが、ウクライナの国境からモスクワまで最短で450km、ウクライナが保有する自爆ドローンでこれだけの距離を飛行できるものは公表されている限りありません。先日、アメリカから提供された自爆ドローンAltius-600Mの射程が440kmなので、頑張れば届かない距離ではありませんが、まず、ロシア領内、ましてやクレムリンを攻撃するのにこれを使用することをアメリカは許可しません。ウクライナはソ連時代に開発された航続距離1000kmの大型無人航空機Tu-141に爆弾を搭載して、ロシア領内を攻撃したことがありますが、ジェットエンジンを搭載し、弾道ミサイルに等しいこの機体がロシアの防空網を掻い潜ってモスクワまで来たのであれば、ロシアの防空網はかなりザルということになります。防空レーダーを掻い潜れるなら小型のドローンの筈で、その点を考えると、クレムリンを攻撃した無人機はロシア領内から放たれた可能性が高いです。
クレムリン付近には対ドローン用の防空網が配備されている
そもそも、クレムリンの上空まで無人機を飛来させたのであれば、それはロシア軍の失態です。現在、戦時中であり、ロシア国内、モスクワ近郊でも爆発が起きており、ロシア当局は警戒を行っていた筈です。実際、モスクワへの無人機による攻撃を懸念して、ロシア軍は今年に入りモスクワにある国防省ビルなど複数の建物の屋上に近距離対空防御システム「パーンツィリ-S1」を配備して、空からの攻撃に備えていました。同兵器は対空機関砲と短距離対空ミサイルを搭載した対空システムで固定翼機、回転翼機、精密誘導爆弾、ミサイルが撃墜可能で、搭載されたレーダーは通常の防空レーダーでは捉えにくい小型ドローンも補足できるとされて、最大30kmの範囲の標的を検知します。これを掻い潜ってドローンがクレムリンの到達したのであれば、同兵器はカタログスペック通りの性能が無いことになります。
不自然な点
今回2機の無人機がクレムリンを攻撃したとれていますが、1機目の攻撃はAM2:27、そして、爆発の映像の2機目は2:43と16分も時間がありながら、2機目の侵入を許したことになります。また、ロシア側は2機とも撃墜したと言っていますが、2機目の映像を何度見ても、迎撃ミサイルや対空砲のような飛翔体、弾道は見えません。電子戦によって撃墜と情報もありますが、爆発していることから、電波妨害の類は考えられません。ロシアはドローンやミサイル迎撃用の指向性エネルギーの迎撃システムを持っているのそれを使った可能性も否定はできませんが、迎撃されたというより、起爆したように見えます。もし、起爆したのであれば、オペレーターが遠隔操作の範囲内に少なくとも数十km以内に居たことになります。爆発後の建物の写真を見る限り特に損傷もなく、攻撃を狙った割りには威力は非常に弱かったようです。まるで、クレムリンが損傷しないように配慮したようにも見えます。爆発直前には建物に上る2人の人物が捉えられていますが、彼らはおそらく警備員と思われ、迎撃のために建物に上がったのかは分かりませんが、撃墜は彼らではないでしょう。
プーチンの偽旗の過去
今回のクレムリンの攻撃はロシアによる自作自演の「偽旗作戦」とも言われていますが、元KGBのスパイだったプーチン大統領は偽旗作戦を行った過去があります。第一次チェチェン紛争を終え、一旦の終息が見えた1999年、チェチェン独立派勢力が再び活動を活発化、同年9月には「ロシア高層アパート連続爆破事件」が発生、300人以上のロシア人が死亡しました。当時、首相だったプーチンはこれらのテロ行為をチェチェンの仕業と断定。国民は恐怖に慄き、チェチェンの侵攻を支持。国民の支持を取り付けたプーチンは強硬策でこれを制圧、これでプーチンは英雄となり、翌年、エリツィン大統領の指名を受け大統領に上り詰めます。しかし、その後、爆破テロ事件を調べるとロシア連邦保安庁(FSB)の関与が疑われます。爆破事件は国民の恐怖を煽りチェチェンへの侵攻の支持を取り付けるためにプーチンの指示でFSBが起こしたという「偽旗作戦」の疑惑です。プーチンは前年までFSB長官でした。この件を追っていた記者や関係者などがことごとく不審死を遂げており、結局、この件は疑惑のまま有耶無耶になっています。
今回のクレムリンへの攻撃はウクライナ侵攻で苦戦するプーチンが”クレムリン”というロシアの象徴がウクライナによって攻撃されと事実を基に国民に恐怖と侵攻の支持を取り付けたいという思惑のもとの「偽旗作戦」と考えられています。5月9日には第二次大戦時、ドイツに勝利した戦勝記念日を控えることもあり、国民に国家の危機を訴え、愛国心を煽り、更なる動員の拍車、支持を得る上では、格好の出来事です。