イスラエル政府当局者はウクライナ当局者との公式会談で、レバノンのヒズボラから押収したロシア製兵器をウクライナに移送することを提案した。イスラエルはこれまでウクライナに軍事支援を行っていない。
在イスラエル・ウクライナ大使館によれば、イスラエルのシャレン・ハスケル外務次官は1月21日のウクライナ大使エフヘン・コルニチュクとの会談で、イスラエルがレバノンの武装組織ヒズボラから押収したロシア製の武器をウクライナに移送することを提案したとウクライナ大使館公式Facebook上で伝えた。「このイニシアティブは、両国が直面する共通の脅威を認識する上で重要な一歩となることが留意された。ウクライナ側は、この問題の前向きな解決への希望を表明した。両当事者はまた、ウクライナとイスラエル双方の国家安全保障に脅威をもたらすイランとロシアの間の軍事協力を含む、両国にとっての現在の共通の課題について議論した。大使は、この脅威にうまく対抗することが両国の共通の利益であると強調した。さらに、両首脳は、ハイレベル及び最高レベルでの二国間接触の強化、並びに経済、領事及び人道分野における二国間協力について議論した。」とウクライナ大使は述べている。
2023年10月のハマスによるイスラエルの奇襲を発端に勃発したイスラエルとレバノンの武装組織ヒズボラとの小競り合いは2024年10月1日にイスラエル国防軍がレバノン南部に侵攻した事で本格的な戦闘に突入する。結果、ヒズボラは大打撃を受け、南部の軍事拠点はことごとく破壊された。11月27日に両者間で停戦に合意。12月にイスラエル軍はレバノンからの撤退を始めてたが、それまでの間にヒズボラの軍事拠点にあった兵器をイスラエル軍は押収、鹵獲したと武器の実に60~70%がロシア製だったと報告されている。
これらには、ドラグノフ狙撃銃、SPG-9無反動砲があり、中にはコルネット対戦車ミサイルなど2020年に製造された新しい兵器も含まれていた。ヒズボラはイランが支援している事で知られており、ヒズボラが所有している兵器の多くはイランから供与されているとされ、その多くはイラン製と思われていた。半数以上がロシア製だったことはイスラエルにとっても想定外だったとされる。もちろん、これらがロシアから直接ヒズボラに供与されたものとは限らない。イランや隣国のシリア経由でもたらされた可能性は高い。
ロシアとの関係を見直すイスラエル
ロシア・ウクライナ戦争で西側陣営がウクライナを支援する中、イスラエルはこれまでウクライナに対し軍事支援を行っていない。その理由が隣国シリアの存在だ。シリアには旧アサド政権を支援するため、イランが軍事施設を建設。イスラエルはこれが自国への攻撃拠点になるとしてシリアに空爆を実施していた。しかし、シリアには同じくアサド政権を支援するためロシアも軍事施設を設けており、ロシア軍施設に誤って攻撃しないようイスラエルとロシアは連絡を取り合っていた。また、ロシアとの関係を維持する事でイランとロシアが接近しないように牽制していた。それもあり、ウクライナへの軍事支援も行ってこなかった。しかし、ウクライナとの戦争の結果、ロシアとイランは急接近。イランはロシアにミサイルや無人機を供与。ロシアはその対価として軍事技術や先進的な戦闘機を供与するとされる。そして、2024年12月にアサド政権が崩壊するとシリアからイランとヒズボラ、ロシアは撤退し、ロシアに配慮する必要がなくなった。イスラエルメディアによれば、シリアにおけるロシアの立場が弱まったため、イスラエル政府はウクライナに対する姿勢の転換を協議し、同盟国の一つに支援を協議したと報告されている。イスラエルはアサド政権崩壊の混乱に乗じ、シリアに侵攻。旧シリア軍の軍事拠点を破壊するなどしたが、その際、シリア軍が保有していたT-72戦車なども鹵獲しており。これらの供与の可能性もある。
ウクライナとしてはロシア製兵器の供与はもちろんありがたいが、イスラエルが誇る先進的な兵器が欲しいのが本音だろう。ゼレンスキー大統領はロシアのミサイルの無人機攻撃に対する防衛を強化するためイスラエルが誇る防空ミサイルシステム「アイアンドーム」の購入を再三要請していた。