イスラエルはアサド政権崩壊後のシリア国内の混乱、権力不在の隙に乗じて、連日、シリア国内の軍事施設数百カ所を空爆、シリアの軍事力の削減を試みている。正規軍が事実上解体したことで、シリアは無抵抗であり、航空機や艦艇、ミサイル設備はほぼ壊滅した。
8日にアサド政権が倒れたことで、正規軍であるシリア政府軍も事実上解体。兵は降伏し、一部はイラクなど国外に脱出した。これにより、多くの軍事施設は機能が停止。その隙に乗じたのがイスラエルであり、領有権を争っていたゴラン高原に侵攻し、これを制圧。そして、反政府派に武器が渡る事を防ぐためとして旧政府軍の軍事施設に対し、空爆を実施した。イスラエル軍は10日火曜、過去48時間にシリアで480回以上の攻撃を実施、戦略拠点のほとんどを攻撃したと発表。軍は一連の空爆でシリアの戦略兵器備蓄の大半が破壊されたと発表した。正規軍が無い今、シリアはほぼ無抵抗であり、反撃が無い事もあり、480回の攻撃の内、350回は有人機によるものだ。
Mig-29戦闘機中隊は全滅
Several MiG-29s of the Syrian Air Force were claimed to have been destroyed yesterday, as a result of Strikes by the Israeli Air Force on Khalkhalah Air Base in the Suwayda Governorate. pic.twitter.com/T7sWOXQPwU
— OSINTdefender (@sentdefender) December 9, 2024
イスラエル軍はシリア最南端のスワイダ県にあるアル・スワヤダ、ハルハラーといった空軍基地とその他の重要施設を標的にした。この攻撃によって旧シリア空軍が保有していたMig-29戦闘機が全滅したと報告されている。シリアは2022年時点で29機のMig-29を運用していたとの報告があるので、これを全部失った事になる。シリア空軍が保有していた他の戦闘機はMig-21、Mig-23、Mig-25、Su-22、Su-24になり、1980年代に登場したMig-29はシリアが持つ、最も先進的な戦闘機だった。2011年にはロシアの協力を得て、近代化改修も行われている。これを失った事はシリアの防空能力を大きく低下させ、地域のミリタリーバランスを大きく変える事になる。もちろん、それをイスラエルは狙っていたのであろう。だが、そもそも新政権に現状、空軍を運用をできる能力は無い。旧政府軍からどれだけのパイロットが復員するのかは分からないが、パイロットは軍の中でもエリート層であり、また、内戦下では空軍が反政府派地域に無差別爆撃を実施。シリア内戦の死者数は40万人とも言われているが、死者の7割は空爆によるもので、パイロットは民衆から恨みを買っている可能性がある。シリアが保有する航空機の9割はソ連/ロシア製だが、ロシアが去った今後、ロシアからパーツやメンテナンス支援を受ける事は難しくなる事が考えられ、他国の協力なしには運用が難しくなる。
海軍戦力もほぼ壊滅
🚨 Amazing footage of the port of Latakia, where the IDF destroyed part of Assad's Syrian fleet pic.twitter.com/crwcgY6Zd7
— Raylan Givens (@JewishWarrior13) December 10, 2024
イスラエル国防軍は声明で、同軍のミサイル艦が9日月曜の夜、15隻の船舶が停泊していたアルバイダとラタキアの港をミサイルで攻撃したと発表した。北部の要衝であったラタキア港では焼け焦げ沈没する6隻のミサイル艇が確認されている。これらは1960年代にソ連で開発されたオーサII級ミサイル艇になり、シリア海軍はかつて16隻を保有していた。満排水量210tの小型艇で、射程46kmのP-15対艦ミサイルを4発、射程5,500mの短距離防空9K32 ストレラ-2を16発搭載している。1973年の第四次中東戦争に参加しており、イスラエル海軍と海戦を行っている。
シリア海軍の攻撃艇はこの他、イランから供与された高速魚雷艇のティル IIや2019年にロシアから供与されたラプター級巡視艇などがあるが、保有しているのは小型艇ばかりで、大型の艦船は持っていない。シリアの地中海沿岸には1971年からロシア海軍が駐留するタルトゥース海軍基地があり、睨みを利かしていた。しかし、今回の攻勢で同基地からはロシア海軍艦艇が撤退。同じく地中海沿岸にあったロシア空軍の拠点であるフメイミム空軍基地からも航空機や防空システムが撤退しており、イスラエルもロシアを気にする必要が無くなっていた。イスラエル軍は内戦時にシリアに80回ほどの空爆を実施しているが、それは主にヒズボラや親イラン民兵組織といったイランの息がかかる組織に対してであり、ロシア軍に被害が及ばないよう両者間では事前に情報が共有されていたとされる。シリア軍もこれらの攻撃に対してイスラエルには報復していない。
イスラエルのカッツ国防相は10日、イスラエルに対するテロの脅威を防ぐため、シリア南部に非武装地帯を設けると発表。イスラエル軍は常駐しないと述べているが、一方的な対応でシリアの了承などは得ておらず、侵略行為とも言われている。シリア国内の混乱に乗じたゴラン高原の制圧、軍事拠点の空爆にトルコ、エジプト、サウジアラビアといった周辺国は非難の声をあげており、ゴラン高原の制圧は停戦協定違反と国連も避難している。