現在、各国の陸上部隊では軽戦術全地形対応車(Light Tactical All Terrain Vehicle)、略してLTATVの導入が進んでいる。日本ではバギーといわれる乗物になり、通常の車両では走行できないような不整地の荒れ地でも走行できる車両だ。車両は小型で主に一人または二人乗りが基本となり、最大4人程度乗れる車両もある。屋根や装甲はなく、戦闘には不向きであり、主に移動やパトロール、小規模、短距離の物資の運搬などに使われる。小型軽量という事もあり、航空機やヘリでの輸送も可能だ。特殊部隊の作戦時には現地での足、機動性の高い交通手段として部隊と共に空輸される事もある。
[adcode]©2020 Polaris Inc.LTATVは”Light Tactical All Terrain Vehicle”の略になり、意味は「軽戦術全地形車両」になる。現在、多くの国の特殊部隊、空挺部隊で採用[…]
世界各国の軍で導入されているLTATVの中に先駆けとなった日本メーカーがある。それが川崎重工業こと「Kawasaki(カワサキ)」だ。バイクやジェットスキーでは世界トップクラスのメーカーになるがATVにおいても欧米では高いシェアを誇っており、2~4人乗りのTERYXとMULEは軍にも採用されている。
特殊作戦司令部が採用したTERYX
米国の特殊作戦司令部(SOCOM)はCH47チヌークヘリコプターやV-22オスプレイなど、さまざまな小型航空機で輸送することができ、迅速な対応と目立たない任務を行う特殊作戦部隊用のATVを検討していた。そこでいくつかの要求を掲げた。
・軍用機で内部輸送可能(CV-22およびCH-47)
・1,100ポンド(4×4バリアント)および1,200ポンド(6×6バリアント)のペイロード
・150マイル(2400㎞)走行能力
・ステアリングホイールを含む標準の自動車制御を装備
・ロールオーバープロテクションを装備
・業界標準(4点または5点)のシートベルトを装備
・タイヤ貫通後、時速48㎞/hで24㎞、車両を動かすことができるランフラットタイヤを装備
これらの要求を満たすLTATVとしてSOCOMは2009年にカワサキのTeryx 750 RUVを選定した。Teryxはパワフルで扱いやすい四輪駆動で水冷4ストロークV型2気筒750㏄のエンジンは最高時速87㎞で走行できた。ロールオーバー保護構造(ROPS)、フロントディスク、特別な密閉型リアブレーキ、独立したサスペンション。車体には500ポンド(226キロ)と荷台には1,300ポンド(590キロ)の積載能力があり2人の兵士、機関銃をマウントしても十分だった。その他、軍用向けにフル装備の兵士でも座れるようにシートが改修されたり、任務に応じて装備が変更できるように部品やパーツがモジュール化された。契約の総額は3億ドルになり、5年間で1600台あまりのTeryxが提供された。現在、契約は終了し、今はポラリス社がSOCOMにLTATVを提供している。
公式サイト:https://www.khi.co.jp/leisure/atv/
陸上自衛隊も採用する
実績十分のカワサキの「TERYX」を陸上自衛隊はようやく2019年に調達している。配備先は日本版海兵隊である「水陸機動団」のある相浦駐屯地になる。これには2020年度から陸上自衛隊に正式配備されるV-22オスプレイが要因と考えられている。オスプレイにはLTATVを搭載することが計画されているのだ。離島防衛などの際は水陸機動団と合わせてTERYXをオスプレイで輸送して、TERYXで機動力を確保するといった運用が予想されている。