旗艦の沈没など、損失が著しいロシア海軍の黒海艦隊。しかし、同艦隊にはまだ、強力な艦が無傷で残っています。それが、キロ級(キロ型)潜水艦です。この潜水艦をどうにかしない限り、ウクライナは黒海の制海権を握ることはできず、船舶の安全な航行もできません。
黒海を抑えるロシア海軍の黒海艦隊はウクライナ軍の攻撃によって旗艦モスクワなど大小13隻の船を失い、戦力は消耗しつつあります。更に、イギリスやデンマークから対艦ミサイル「ハープーン」のウクライナ軍への提供が計画されており、対艦攻撃能力は増強されることになります。黒海艦隊は攻撃を警戒し、艦船の行動範囲が制限されつつあり、ウクライナ軍が黒海西側の制海権を奪取するのも近いとされます。水上にいる艦船は対艦ミサイルで押さえつけることがでるのですが、黒海艦隊には厄介なキロ級潜水艦が残っており、これをなんとかしないとウクライナの海運はストップしたままになります。
黒海艦隊が持つのはキロ級潜水艦の最新艦「改キロ級」
キロ級潜水艦は1982年にソ連海軍で就役が始まったディーゼルエンジンを搭載する通常動力型の攻撃型潜水艦です。1982年就役と聞くと、他のロシア艦船同様に古い艦かと思ってしまいますが、キロ級はその後、何度か改良が施され、現在ある艦は1990年代半ばに就役が始まった「プロジェクト636」モデル以降の艦になり、黒海艦隊に配備されている艦は全て”改キロ級”と呼ばれる2014年に就役が始まった「プロジェクト636.3」と呼ばれる最新艦です。
スペック
全長74m、排水量は3,900tを超え、運用深度240m、最大深度は300m。乗員52人を乗せ、最大45日間を任務を継続、航続距離は14,000Kmになります。1500 kWの2つの4DL-42Mディーゼル発電機を搭載。スクリューのプロペラは前モデルの「プロジェクト877」の6枚から7枚に増加。水中を最大20ノットで航行します。
改キロ級は、浅瀬で対艦および対潜水艦任務を遂行するように設計されており、陸上、水上、および水中の標的を攻撃するための最新のデジタルソナー、騒音低減技術を備えたステルス技術を備えています。
武装には6つの533mm魚雷発射管を備え、最大18発の魚雷、若しくは24個の機雷を搭載します。そして、この他に最大10発のカリブル巡航ミサイルを搭載することもできます。
黒海艦隊の第4独立潜水艦旅団には6隻のキロ級潜水艦が在籍、内4隻が侵攻前に黒海に配備されていました。
対潜兵器を持たないウクライナ軍
“Kalibr” cruise missile launch from Black Sea submarine targets ground facilities of Ukraine Armed Forces. pic.twitter.com/VtuKtU5oJD
— MI NEWS (@SNMilitary) May 5, 2022
ロシア海軍はウクライナ軍の対艦ミサイル「ネプチューン」によって旗艦モスクワが撃沈されると、攻撃を恐れて、水上艦からによる巡航ミサイルの攻撃をやめ、キロ級潜水艦からによる、水中からの巡航ミサイルの攻撃に切り替えます。キロ級は最大深度50mからミサイルを発射することが可能であり、水面に姿をさらすことはありません。そして、対艦ミサイルには基本、水中の敵を攻撃する能力はありません。
現在のウクライナ海軍には対潜攻撃能力がないとされます。唯一あった潜水艦は2014年のロシアによるクリミア併合時にセヴァストポリに停泊していたため、ロシアに接収され、対潜水艦コルベット艦のヴィーンヌィツャはロシア軍の侵攻時に鹵獲されたとの情報があり、ウクライナ海軍に対潜水艦戦を行える船はほとんどありません。
今のところ、ウクライナ軍が対潜兵器をアメリカや西側に求めているという声は聞きません。西側から対艦兵器が供与され、対艦攻撃である程度、黒海艦隊を更に消耗させてから、次のフェーズで対潜兵器を要求することになるかもしれません