ウクライナ空軍の奮闘で見直されるレーダー回避の低空飛行スキル

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開戦以降、航空優位性をロシア軍に握られているウクライナ空軍だが、全滅することなく奮戦を続け、前線近くで効果的な空爆を実施している。その背景にはロシア軍の防空レーダーを回避する高度な低空飛行スキルがあるとされる。

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ビジネスインサイダーによれば、元F-16パイロットでミッチェル研究所の防衛専門家であるジョン・ヴェナブル元米空軍大佐は「ロシア・ウクライナ戦争は、正規軍同士の戦闘で西側諸国が応用すべきさまざまな教訓をもたらした。その教訓の一つは、古い技術、特に低高度飛行を復活させる必要があるかもしれないということだ」と語ったと報じた。ヴェナブル氏は、2007年に米空軍を退役するまで、25年間に渡って米国、欧州、太平洋、中東といった世界各地でF-16に搭乗。クウェート、イラク、アフガニスタンで300時間以上の戦闘経験を積んだ経験豊富なパイロットになる。

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ヴェナブル氏が言う”低高度飛行”とはウクライナ空軍のパイロットがロシア軍の防空レーダーを回避するために地上スレスレの低高度を飛行することだ。レーダーは電波を発射して物体に反射させ、その反射波を受信することで標的を探知する。この電波は直線だ。ご存知のように地球は丸みを帯びており、地平線の下に隠れてしまえば、電波を受ける事はない。山間部や谷があれば、それを遮蔽物にして飛行することでレーダーを避ける事ができる。飛行高度が低ければ低いほど、レーダーに発見されにくく、標的に接近できる。

戦闘機パイロットはレーダーを避ける為、高度100フィート(約30m)を飛行する低空飛行訓練を行う。ただ、戦闘機のステルス化や中長距離兵器、高高度から精密爆撃可能な兵器の登場により、現代の戦闘で低高度飛行して戦闘する機会はほとんどない。ヴェナブル氏によれば、米空軍は1991年の湾岸戦争の「砂漠の嵐作戦」までずっと低高度戦術の訓練を続けていたが、初期の戦闘で米軍機が数機失われたため、中高度戦術に移行したと述べている。湾岸戦争では米軍はF-15やF-16といった戦闘機含め固定翼機52機を失っている。ただ、各国の防空兵器、レーダーが進化、交戦距離が延びる中でF-35、F-22といったステルス機でも近い将来、低空飛行を強いられると述べている。アメリカの近年の戦闘は制空権を握り、戦闘機や防空兵器を満足に持たない相手がほとんどだったが、対中国を念頭においた場合はそうはいかない。

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リスクが高い低空飛行

地上スレスレを飛行すると言う事は、事故のリスクが高い上に途中、未確認の防空兵器に遭遇すれば、被弾する可能性も高い。パイロットが反応して地面への墜落を回避する時間はほとんどないので、脱出も難しく貴重なパイロットも失ってしまう。攻撃時には高度を上げる必要があり、その際はレーダーに検知されるリスクが高まる。回避するために直ぐに急降下して低空飛行に戻さねばならない。

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ウクライナの大部分は平地になり、主要な戦線である東部南部にはレーダーを遮る山脈や丘といった障害物が少ないため、ウクライナ空軍のパイロットは常に低高度を飛行せなばならない。ロシア軍が誇るS-300/400といった長距離防空ミサイルシステムのレーダー探知距離は広大でS-300は300km、S-400は最大600kmとされている。これはロシア領内からウクライナ領内の約半分の空域を検知できる距離だ。ウクライナ軍パイロットはこのレーダーを避けながら東部や南部のロシア軍拠点に接近して攻撃せねばならない。

レーダーを避ける為、ウクライナ軍はパイロットはより低高度を飛行しており、地上20mほどを飛行する様子も確認されている。20mほどの高度なら大抵の針葉樹より低いので、木々を障害物としてレーダーを回避できる。しかし、これだけの低高度を飛行するには並はずれた集中力と度胸が必要だ。

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開戦前、ロシア空軍とウクライナ空軍の戦力差は10倍以上あった。空軍力で圧倒的な戦力差があり、航空優位性がロシア軍にある中、ウクライナ軍はロシアに制空権を渡していない。損失は100機以上と決して少なくはないが西側の援助もあり、今なお空軍は健在だ。

ウクライナとしては損失を抑えるため、スタンドオフ兵器の供与を望んでいる。イギリスとフランスは空中発射可能な射程250kmの巡航ミサイル「StormShadow/SCALP」を供与しているが、これが使用できるのは数少ないSu-24MR戦闘爆撃機のみだ。実際、Su-24は再三、出撃しているが、2022年を最後に撃墜が確認されていない。ウクライナ空軍の主力戦闘機であるMig-29とSu-27の主要な空爆兵器はJDAMやAASMといった滑空誘導爆になり、射程は数十km。JDAM-ERで72kmあるが、射程を最大限活かすためにはできるだけ高度を上げねばならず、リスクは高い。

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ウクライナ空軍の奮闘で見直されるレーダー回避の低空飛行スキル
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