スピードガンのようにも見える無骨なデザインをした拳銃。これはドイツの銃器メーカー”ヘッケラー&コッホ(H&K)”によって1970年代に開発された水中銃P11だ。
概要
P11は水中で任務を行うダイバー向けに開発、水中で使用することを前提に開発された銃だ。そのため、地上で使われる銃や弾丸と構造は異なる。
一般的な弾丸を水中で撃った場合、弾丸の運動エネルギーは水の抵抗により減衰し、殺傷能力は僅か2メートル未満まで下がる。P11に使われる7.62×36mm、全長100mmの専用スチール製弾丸は先端が細く尖ったダーツ状になっており、これにより水の抵抗を減らしている。火薬は湿気るので固体燃料を使用し、ロケット弾のような形で弾丸は発射される。ハンマーは無く、グリップ内のバッテリーから雷管に通電する「電気式」を採用。
銃身は5つのバレルが束になったような構造でリボルバーのシリンダーのような形状になっている。バレルにはライフリングがない。これは弾丸の回転による直進性が水中では意味がないのと、運動エネルギーを節約し、精度よりも直進性・飛距離を保持するためだ。バレルがカートリッジの役目も担っているが、再装填はできず、弾丸の装填はバレル毎交換する形になる(メーカーでなら再装填は可能)。
気になる威力とはいうと、水中での射程は最大17m。短いようにも思えるが、通常の弾丸が2mなので、水中での戦いになった場合はかなりのアドバンテージがある。地上でも使えるが、射程は最大34mと短く、精度も悪いのでCQB(近接戦闘)にしか使えない。
長年秘密にされた水中銃
P11は1970年代に開発され始めたが、正式にその存在が明るみになったのは30年近く経った1997年と、何十年も秘密にされてきた。その理由としてP11はドイツ海軍の特殊部隊であるKommandoSpezialkräfteMarine(KSM)のために開発、運用された武器で、ドイツ版ネイビーシールズといわれた彼らの情報は冷戦下では機密扱いであり、彼らの装備であるP11も秘密にされてきたものと思われる。ソ連ではこの時、既にSPP-1水中拳銃を開発しており、P-11はそれに対抗したものと思られるが、同時期にソ連はより威力の高いAPS水中ライフルの開発をしている。
P11はアメリカ軍、フランス軍、イギリス軍、オランダ軍、イタリア軍、デンマーク軍といったNATO加盟国の特殊部隊や海軍でも使用された。
スペック
口径 | 7.62mm |
重量 | 1.2㎏ |
全長 | 200mm |
弾丸 | 7.62x36mm |
装弾数 | 5発 |
射程距離 | 17m(水中) 34m(地上) |