フィリピン軍、米軍との合同軍事演習で退役した中国製艦艇を標的艦にして沈めた意味

フィリピン軍、米軍との合同軍事演習で退役した中国製艦艇を標的艦にして沈めた意味
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フィリピン海軍は米軍と南シナ海で行った合同軍事演習で退役した中国製艦艇を標的艦として攻撃を行い、撃沈させた。南シナ海ではフィリピン沿岸警備隊と中国海警との衝突事件が度々発生。緊張が高まっていたこともあり、中国製艦艇の撃沈はいろいろ波紋を呼んでいる。

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フィリピン海軍は、5月8日に南シナ海ルソン島北部ラワグ沖で行われた米軍との海上合同軍事演習で敵艦船への攻撃演習を実施。海上に設置された標的艦に対し、スパイク・ミサイルを装備した海軍の高速艇が早朝8時半に攻撃の楔を切ると、ホセ・リサール級フリゲートが対艦ミサイルを発射。その後、フィリピン空軍のFA-50戦闘機が空対地ミサイルを発射。また米軍からもF-16戦闘機とAC-130ガンシップが攻撃を行った。更には15km離れた陸地からATOMS 155mm榴弾砲が砲撃を実施。陸海空から攻撃を受けた標的艦は午前10時49分に完全に沈没した。フィリピン軍のオマル・アル・アサフ中佐はこの演習について記者団に対し「侵略者がフィリピンの地に上陸するのを阻止しようとする使命がある」と語った。

海上の標的艦を沈める攻撃演習は珍しい事ではないが、注視すべきは使用された標的艦が中国製の「BRP Lake Caliraya(レイク・カリラヤ)」だった点だ。同艦はフィリピン海軍の小型補給タンカーでフィリピン海軍の唯一の中国製資産だった。もともとはフィリピン国営石油会社の船で2014年に海軍に寄贈され、2020年に退役していた。2023年に訓練の一環で沈没させる予定だったが、悪天候で中止、そして、今回、標的艦となって沈没した。

しかし、船が中国製だったこと、タイミング的な事もあって、同艦が標的艦となって沈没させられたことはいろいろ波紋と憶測を呼んでいる。

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南沙諸島の領有権争い

フィリピンと中国は南シナ海の南沙諸島の周辺海域の領有権を巡って争っており、中国は人工島を造成するなどして南シナ海のほぼ全域で領有権を主張。中国の主張に対しオランダ・ハーグの常設仲裁裁判所は2016年、中国が領有を主張している南シナ海の海域について、国際法上「歴史的権利を主張する法的根拠はない」はないと明確な判断を下した。しかし、中国がそれに素直に応じるわけがなく、造設した人工島に軍事施設、飛行場を造るなど実効支配を強化。2020年には南沙諸島を管轄する南沙区の行政組織を設置した。また漁船などを含む数百隻に及ぶ中国船の船団を同海域に度々派遣し、海域で活動するフィリピン漁船などにも圧力をかけており、それらの船団には中国共産党傘下の民兵組織「中国人民軍海上民兵」が含まれているとされ、彼らは退役軍人で船には通信システムやレーダーなどを含む高度な電子機器が積まれているとされている。もちろんフィリピン政府も黙って見ているわけではなく、沿岸警備隊の船などを派遣しているが、中国は中国海警局の大型巡視船を派遣。沿岸警備隊の船に接近して妨害するなどしていたが、昨年からはそれがエスカレートし、フィリピン軍の補給を妨害するために船に放水や体当たりといった実力を行使を辞さなくってきており、フィリピン側に怪我人も出ており、双方で非難の応酬になっている。

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そのような状況で、今回、フィリピン軍は中国製の船を標的艦として沈めたわけだ。何かしらのメッセージが込められていたとも読み取れる。中国国営メディアは中国製艦艇を対艦ミサイルや爆弾の標的として利用する動きは「明らかな挑発的な意図」を示していると述べている。フィリピン側は「これは全くの偶然であり、船の起源に向けられたものではない」と否定している。しかし、フィリピンは中国に対抗するため、今回の合同演習を含め、アメリカとの協力関係を強化しており、4月には今回の演習に先立ちルソン島に米陸軍がタイフォン・システムとして知られる移動式中距離能力ミサイルシステム (Mid-Range Capability:MRC)を配備している。MRCはSM-6対空ミサイルとトマホーク巡航ミサイルが発射可能なミサイルシステムだ。設置場所はルソン島の北端になり、台湾とルソン島の間は250kmしか離れていない。SM-6の最大射程は370km以上、トマホークは1000km以上と台湾を射程に納めることで、台湾侵攻を計画しているする中国をけん制する狙いがあるとされ、MRCの配備は中国の反発は必至で、中国外務省は「地域諸国の安全を著しく脅かし、地域の平和と安定を損なうものである 。中国は断固たる対抗措置を講じる」と述べている。しかし、フィリピン政府は配備を承認した形だ。中国への経済依存が大きいフィリピンはドゥテルテ前政権時は対中融和路線をとっていたが、結局、その影響で中国の海洋進出を進める事になり、現在のマルコス政権は日米と関係強化を図り、対決姿勢を見せている。

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フィリピン軍、米軍との合同軍事演習で退役した中国製艦艇を標的艦にして沈める
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