緊迫するウクライナ情勢、航空戦力で圧倒的不利なウクライナにはアメリカやバルト三国から多数の携行式防空ミサイルシステム(MANPADS)が送られている。その多数を占めるのが米国のスティンガーだが、もう一つ送られているMANPADSがある。それがポーランド製のGrom (グロム)だ。
ソ連から盗み出した設計図によって開発
グロムはポーランドの防衛企業MESKOによって設計開発された携帯式防空ミサイルシステム(MANPADS)で、ベースにあるのはソ連製のMANPADS”9K38 Igla(イグラ)”だ。MESKOは1970年代からソ連製のMANPADS”9K32 Strela-2(ストレラ-2)”のライセンス生産を行っており、1983年にソ連軍に配備された最新モデル「イグラ」も生産すると思われたが1991年のソ連崩壊によって、イグラのライセンスを得ることが難しくなった。ストレラ-2の生産も誘導弾頭やロケットエンジンといった肝となる部分はソ連からの提供だったため独自改良するのも難しく、ソ連の影響から抜け出たものの自衛のための最新のMANPADSが保有できなかった。そこで、ポーランドの諜報局は崩壊直後で混乱するロシアからイグラの設計図を入手することを考え、光学デバイスを開発するロシアのLEMO社から入手することに成功。盗んだ情報にはなるが、晴れて国産のMANPADSである「グロム」の開発に成功する。
開発は1992年に始まり、1995年に開発が完了し、ポーランド軍に配備される。当初はイグラの設計要素そのままだったが、1990年代後半にはポーランド独自に設計した要素に置き換えられている。
スペック
グロムは赤外線ホーミング誘導システムを備え高度4000m、距離6500mの標的を攻撃することができる。一人の兵士で操作できるように設計されており、ミサイルを含む総重量は16.5kgになる。弾頭重量は1.27kgで、ミサイル自体は10.5kgになる。発射チューブには光学機器として昼夜カメラが搭載されている。
2015年には改良型のGrom-MことPiorun(ペルーン)が開発され、今回、ウクライナに提供されているのはペルーンになる。赤外線ホーミングの感度は4倍、光学機器には敵味方を識別するIFF装置と熱画像サイトを追加することもできる。また射程が最小範囲400m~、最小高度10m~と短距離化されており、低高度を飛行するUAVにも対応。ドローンの群れスウォームにも対応できるよう近接信管に対応した弾頭も用意されている。
実績
グロムは今回のウクライナ、ジョージアやインドネシア、リトアニアなど複数国に輸出されている。日本の防衛省も2010年に評価用に購入したことがある。グロムが最も使用されたのは2008年のジョージアとロシアによる「南オセチア紛争」だ。この時、30発の発射装置と100発以上のミサイルがジョージアに輸出され、使用された。ロシア軍のSu‐25攻撃機などがグロムによって被害を受けたとされる。また、この時、複数のグロムがロシア軍側に鹵獲されており、それがウクライナのドネツクの反政府武装組織の手に渡り、グロムによってウクライナ軍のMi-24ハインド戦闘ヘリ2機が撃墜されたとされている。またウクライナ政府は2014年5月に武装組織からグロムを押収したと発表している。
Source
https://spidersweb.pl/2022/02/amerykanie-kupuja-polskie-rakiety-piorun.html