
インドのモディ首相が米国を訪問し、トランプ大統領と首脳会談を行った。ロイター通信などの報道によれば、会談の中でトランプ大統領がインドに対し、F-35の売却を提案したと報じられている。F-35は日本やNATO加盟国といった同盟国や西側陣営にしか提供しておらず、インドに売却が実現すれば地域のパワーバランスは大きく変化する。
During a press conference with U.S. President Donald J. Trump and Indian Prime Minister Narendra Modi, President Trump has committed to supplying India with the U.S-made F-35 fighter jet. Recently the F-35 payed a visit to India for “Aero India 2025” alongside a Russian Su-57… pic.twitter.com/m6IrIyVm9w
— OSINTdefender (@sentdefender) February 13, 2025
13日にホワイトハウスで行われたトランプ大統領とインドのモディ首相の首脳会談。両国は貿易協定締結と関税を巡る対立解消に向けた協議を開始することで合意。インドは米国産石油・ガスの購入拡大や不法移民対策を約束した。ただ、首脳会談の議題の中心は安全保障だったとされ、地域で影響力を増し、中国と対立するインドとの防衛関係強化が図られた。会談後に行われた共同記者会見でトランプ大統領は「今年からインドへの軍事販売を数十億ドル増やす予定だ」と語り、「我々はまた、最終的にインドにF-35ステルス戦闘機を供給する道を切り開いている」と付け加えた。インドに第5世代ステルス戦闘機の売却が実現すれば、地域のパワーバランスは大きく変化する事になる。
インドは今や中国を抜いて世界1位の人口を擁し、経済成長率においても中国を上回り、新興国第2位の経済規模、かつ世界第5位の経済大国に成長し、影響力を高めている。しかし、周辺国とは火種を抱えており、国境を接するパキスタンと中国とは長年に渡り領土問題で争っている。そして、パキスタンと中国は軍事的同盟を強化し、インド包囲網を敷いている。両国は共同で兵器開発を行い、第4.5世代と謳うJF-17戦闘機を開発。パキスタン空軍は100機以上を配備している。また、パキスタンはもうすぐ就役間近とされる中国2機目の第5世代ステルス戦闘機J-35を40機を購入すると報じられている。ご存知のように中国は既に国産の第5世代ステルス戦闘機J-20を配備。その数は200機以上に上る。更にパキスタンまでがステルス機を導入すれば、インドも黙ってられない。
ステルス機がないインド

インド空軍の現在の主力戦闘機はロシアからライセンス生産している260機のSu-30MKI、ロシア製のMig-29が60機。そして、近年、数を増やしているのがフランスのラファール多用途戦闘機と量産が本格化した国産のTejas戦闘機になる。ラファールは空軍で36機が配備、海軍が艦載機用に26機のラファールMの調達を予定している。Tejasは計300機の生産を予定しており、現状、初期モデルの40機が納入、2029年頃までに100機の配備を予定している。この他、老朽化しているフランス製のミラージュ2000が50機、ソ連製のMig-21が40機ある。もっとも最新なのがラファールで第4.5世代戦闘機と言われており、インドは第5世代ステルス戦闘機を保有していない。インド空軍は「Make in india」政策に基づき、老朽化したMiG-21の更新と兵器庫の補充を目的に114機の新しい多用途戦闘機を購入する総額200億ドル規模の「MRFA」計画の大型契約の入札準備を進めているが、これも候補に挙がっているのはグリペンE/Fやラファール、F-15EXといった第4~4.5世代の戦闘機になる。
インド空軍と海軍は共同で「HAL AMCA」と呼ばれる国産の第5世代戦闘機の開発を行っているが、量産予定は2035年とまだだいぶ先。また、インドの兵器開発は順調にいったケースは少ない。Tejasは1980年代に開発を始めながら、最初の機体が納入されたのは2015年だ。
この空白を埋める意味でもインドはF-35を欲しいだろうが、インドは国内兵器産業の技術力発展を目的に近年の兵器購入では相手国に国内でのライセンス生産や技術移転を求めている。F-35はブラックボックス指定の技術が多く、それに触れる事ができるのは日本やイスラエルなど限られた同盟国のみである。インドは日本、アメリカ、オーストラリアによる日米豪印戦略対話(Quad)の加盟国ではあるが、クアッドは軍事同盟ではない。米国との同盟強化を図るという選択肢もあるが、インドは長年に渡り、東西どちらの陣営にもつかず、戦略的自治政策をとり、米国、ロシア、その他の大国との間でバランスを保ってきた。
トランプ大統領が「我々はまた、最終的にインドにF-35ステルス戦闘機を供給する道を切り開いている」と言っているように、”インドがF-35が欲しく、その為にこちらの要求をのむのであれば、供給するよ”という風にもとれる。ロシアが先日まで開催されていたインド最大の航空ショー「Aero india」に初めてSu‐57を派遣し、売込みをかけているとされる。ただ、今回のトランプ氏の提案により、Su-57の購入も難しくなったのは事実である。ここでSu-57を購入すれば、ロシア陣営に付くのかと思われる。バランス外交を敷くインドはF-35、Su-57どちらの購入も難しくなっているのは事実だろう。
また、ただでさえ、国産、ロシア製、フランス製と多様化しているインド空軍の戦闘機において、更にアメリカ製F-35の導入は兵站のサプライチェーンが複雑になり、統合するのは容易ではない。しかも、ステルス、最新のアビオニクスとこれまでの運用保守業務とは比較にならない。経済成長率が目覚ましいインドでも、コスト負荷は大きい。