ロシアの民間軍事会社ワグネルのプリゴジンはウクライナからロシアに進軍したことを表明。進軍を邪魔する者はだれであろうと排除すると述べており、実際にロシア軍と戦闘する様子の映像も公開されています。モスクワでは厳戒体制がとられており、ワグネルによるクーデターが始まったとされています。
ロシアの民間軍事会社ワグネル創設者のエフゲニー・プリゴジン氏は23日金曜、Telegram上でロシア軍が自国の兵士を攻撃し、多数が死亡したと非難、ワグネル陣地がロシア軍のミサイル攻撃を受けたという動画も公開されており、プリゴジン氏は「この国の軍事指導部がもたらす悪は阻止されなければならない。正義を回復すると決めた。何万ものロシア兵の命を奪った者を罰し、抵抗する者は破壊する。これはクーデターではなく、正義の行進だ抵抗する者はすぐに壊滅させる」と述べ、反乱と思われる発言を行いました。これに対し、ロシア当局は武装反乱・クーデター未遂の容疑で刑事事件として捜査を開始。ロシア連邦保安庁(FSB)が捜査に当たっているとされます。これに対し、プリゴジン氏は一時「クーデターは企てていない」と否定しました。
A Russian milblogger posted a video reportedly showing a clash between Wagner and Russian forces near Rostov.https://t.co/r90GUbFgmp pic.twitter.com/RbtelNQ8AD
— OSINTtechnical (@Osinttechnical) June 24, 2023
しかし、翌日、状況は一変します。ワグネルの部隊がウクライナから国境を越え、ウクライナの東、ロシア南部のロストフに入ったと表明。部隊の進路を妨げるものは誰であろうと撃破すると述べました。実際、ロストフでワグネルとロシア軍との間で戦闘が起きているとされる映像が公開されます。
Wagner forces have made it to the Southern Military District Headquarters in Rostov. pic.twitter.com/BVKmfuWWEm
— OSINTtechnical (@Osinttechnical) June 24, 2023
更にはロストフにあるロシア軍南部軍管区総司令部に部隊が到着。同司令部を制圧したと見られます。軍司令部を狙っていることから、ワグネルが単純にウクライナから撤退したのではなく、戦略的に動いているのが分かります。また、ワグネルの戦闘員が数日前に家族に別れの電話、ニュースを見るようにと連絡していたという情報もあり、突発的ではなく、前から計画された軍事クーデターかもしれません。
プリゴジン氏が最終目標をどこに置いているのか、まだ不明ですが、ロシア軍の上層部、特にショイグ国防相とゲラシモフ参謀総長の軍トップ2人を以前から非難しており、彼の最終目標は軍を押さえ、2トップの首を取ることかもしれません。既にモスクワでは非常事態体制に入っており、市内には装甲車が配置され、いたるところに検問所が設置されているようです。未確認ですがプーチン大統領が地下シェルターに入ったという情報もあります。
ワグネルの戦力は?
しかし、いち民間軍事会社がクーデターを起こして、ロシア軍を制圧できるのでしょうか。イギリス国防省の2023年5月時点での分析ではワグネルの戦力は推定5万人とされ、これはウクライナに侵攻するロシア軍部隊の実に4分の1を占めます。侵攻当初数千人だったワグネルは今やロシア軍の一翼を担うほど巨大化しています。ワグネルを相手にするにはロシア軍も2個師団規模の戦力を割かねばならず、ウクライナに侵攻中の今、そんな余力はありません。さらにワグネルが抜けたということであれば、その分、ウクライナで補填しなければいけない状況です。ワグネルはロシア軍ほどではありませんが、戦車や野砲といった重火器に装甲車、戦闘機も保有しており、ロシア国内の治安部隊では対応できません。僅か1日で南部軍管区の司令部まで制圧していることからもワグネルの進軍を止める戦力を南部軍が持っていなかったことが分かります。
ただ、ワグネルは散々、兵器弾薬の不足を訴えていたので、その点が課題です。ただ、南部軍管区を押さえたことで、軍の武器庫から接収できる可能性があります。もう一つワグネルの課題としては5万人の戦闘員の内、4万人が囚人兵という事です。反逆者となった今、彼らに約束された恩赦は期待できません。残りの1万人もいわば傭兵であり、お金のために働く兵士です。彼らがクーデターのためにどこまで戦うかです。
ワグネル単独のクーデターなのか
そして、気になるのが今回のクーデターがワグネル単独によるものなのかです。現在、ウクライナ北部に隣接するロシア西部ベルゴロド州では打倒プーチン政権を掲げるロシア人部隊の「自由ロシア軍」と「ロシア義勇軍」が散発的な戦闘を続けています。彼らは戦力的には乏しく、ロシア国内深くまで単独で進める戦力は持ち合わせていませんが、ワグネルと連携してロシアの西と南から呼応して攻めてロシア治安部隊の戦力を分散することができます。そして、もう一つ考えられるのが西側やウクライナ側と実は影で話し合いが持たれ、今回のクーデターが行われている点です。アメリカや欧米もプリゴジンが前からロシア軍上層部に不満を持っていることは把握しており、彼がロシアの置かれた戦況も分かっていることから、それを利用した可能性も考えられます。見返りとして罪の免除や資金的援助があれば兵も戦い続けるでしょう。
今後、ワグネルの動向が注視されます。