新型コロナの影響で消毒薬が品薄でマスク同様に手に入れるのが難しい。そんな時ふと思い出した。映画やドラマなどで負傷した主人公が手当てする時に消毒薬がない状況でウィスキーなどアルコール度数が高い蒸留酒を消毒薬代わりに傷口に使う光景だ。実際、今の消毒薬が品薄な状況でイギリスのスコッチメーカーが自社の技術を活かしてアルコール消毒薬を作っている。本当にウィスキーやウォッカが消毒薬の変わりになるのだろうか。
なる?ならない?
これは大事なことなので、結論から先に伝えよう。ウィスキーやウォッカが消毒薬になるか?ならないか?結論は”ならない”だ。
一般的に消毒用アルコールのアルコール度数は70~80%になる。最低でも60%が必要だ。かたやウィスキーやウォッカ、テキーラといった度数が高いといわれる蒸留酒のアルコール度数は40%前後が平均で基本的に50度以下に抑えられている。76.9〜81.4%の濃度が最も殺菌作用が高いといわれており、また、逆にそれより高いと殺菌する前にアルコールが直ぐに蒸発してしまう。これらの蒸留酒はそれに適合しない。石鹸で手洗いする方が殺菌作用は高い。
世の中には「スピリタス 」といったアルコール度数96%のウォッカや80%前後の蒸留酒もあるが、そもそも飲用と消毒用とでは同じアルコールでも成分が異なるので酒造メーカーも度数の高い酒を消毒薬と使用することを薦めていなし、消毒効果も保証していない。
サントリーウォッカ80プルーフ キングサイズ [ ウォッカ 1800ml ]
映画のあれは嘘?
ランボーやシュワルツェネッガーといった屈強な男が傷を負って、医療器具が無い中で傷口にアルコールをかけて治療する光景を見た人は多いと思うが、前述の通り消毒効果はないし、あれは本当はやっちゃいけない行為だ。
細菌も殺すが組織も殺す
アルコールは細菌を殺すが、体内の組織を殺す能力もある。なので銃創や裂傷といった開放創の洗浄、消毒にはいかなる種類のアルコールも基本使用してはならない。使えば治癒が遅れることがある。使用する場合は傷口の周囲の汚れなど洗浄する用途であれば使用してもよい。ウォッカは消毒薬のない緊急時の治療に使用される器具の消毒に使用されることもある。消毒薬がない場合、傷口を洗浄する場合に一番よいのはキレイな水になる。
では、映画やドラマのシーンが全くの嘘かといえばそういう訳ではない。
南北戦争時代にはウィスキーを消毒に使っていた
では、なぜ、お酒を消毒薬のように使うシーンがあるのか。実際、南北戦争時など1900年前後の時代は消毒薬として軍隊内で使われていた。
まず、第一前提として当時はまだ医学が発展していなかったし、戦場の医療従事者、兵士も医学的知識が少なかった。
次に輸送や保存手段が乏しい当時に戦場で綺麗な水を確保することが難しかった。そこら辺の水よりは蒸留酒の方が細菌が少なく、感染症のリスクが少ない。さらにアルコール度数が高いこれらの蒸留酒は水とは違い腐ることなかった。そして、欧米ではウィスキーの所持率が多く、水よりも手に入りやすかった。
また、昔のウィスキーは度数が高く60度近い
そして、ウィスキーは飲むことで痛みを和らげる効果があった。
映画で見るのは酒しかないから?
実際、映画でみるようなシーンはキレイな水が無いような状況に見える(水が無いのに酒があるのは謎ではあるが)。傷口を洗浄しない方が感染症のリスクが高いので、酒しか無ければ酒を使うのは致し方ないのだろう。一般の方、特に水資源が豊富な我々日本人がそのような事態になることは無いと思うので、くれぐれも酒を消毒薬代わりに傷口にかけないように。