国際ボランティア諜報機関InformNapalmは、カザフスタンの防衛請負業者がロシアが課せられた国際制裁を回避して西側製の先進的な装備や部品を入手するのを支援しているとの調査結果を発表。入手されていたのはSu-30SM多用途戦闘機用のフランス製電子機器だった。
9月中旬、InformNapalmはカザフスタンの防衛請負業者であるアナリスト・リサーチ・コンサルティング・グループ(ARCグループ)とJSC航空機修理工場第405号が、国際制裁を受けるロシアに代わり、フランス製の高度電子機器を入手してロシアの戦闘機のメンテナンスを支援していることを明らかにした。レポートではSu-30SM戦闘機の修理に必要なフランスメーカーのタレス社とサフラン社の航空電子機器を入手していたと報告している。
Su-30SMをSu-30を発展させて開発された第4世代の多用途戦闘機で2012年から生産が始まった。価格は5000万ドルとされている。Su-30SMでは拡張性のあるオープンアーキテクチャを取り入れた最新のアビオニクスを採用、HUDにはフランスのタレス社製、航空電子機器にはサフラン社製が採用されている。しかし、2014年にロシアがウクライナのクリミア半島に侵攻、一方的に併合した事でSu-30SM生産に必要なパーツの輸出をフランスは禁止する。更に2022年2月にウクライナに全面侵攻した事により、西側の国際制裁は更に強化。ロシアは西側諸国から兵器生産に必要、または転用可能な物資の調達を禁止された。タレス社は制裁強化を受け、2022年6月にロシア市場から完全に撤退した。つまり、ロシアはSu-30SMの生産及び、アビオニクス関連の修理が不可能になっている筈だった。しかし、この間もSu-30SMの修理・メンテナンスは続いていた。
カザフスタンのARCグループは社はサフラン・エレクトロニクス&ディフェンス社と販売契約を結んでおり、カザフスタンとキルギスタンにおけるサフラン製品の独占販売代理店となっている。Su-30SMを採用するカザフスタン空軍に同機の部品をおろし、メンテナンスも担っている。メンテナンスには特別なスキルが必要なため技術者をフランスに派遣して研修を受けさせている。
しかし、レポートによれば、同社はロシア軍のSu-30のフランス製機器のメンテナンスを行う仲介業者としても活動。ARCグループは、2021年10月にロシア企業LLC Rosaviaspetskomplektと初めて契約を結び、Su-30の機内電子機器、具体的にはタレス社とサフラン社の部品を修理・供給することが明記されている。契約書によれば2022年には13ユニットの修理が計画されており、2023年には88ユニットを予定。カザフスタン空軍が所有するSu-30は43機なので、その倍以上の数であることから、国内向けだけではないのは明らかだ。更にメンテナンスのため技術者をロシアに派遣していることも確認されている。
旧ソ連でロシアの友好国で同盟関係でもあるカザフスタンだが、ウクライナ侵攻においてはロシアと一定の距離をとっており、西側の制裁対象には入っていない。タレス社とサフラン社もカザフスタンがSu-30を所有しているので、契約に基づき部品を販売し続けたのであろう。しかし、カザフスタン空軍のSu-30の数に対し、修理に必要なパーツの注文数が過剰であることにフランス側は不思議に思わず気づかなったのだろうか。
今回の報告を受け、タレス社はカザフスタン企業との契約を停止し、契約解除と損害賠償を求める法的措置を検討していると発表した。それに対し、サフラン社は2014年以降、制裁を順守していると述べ、自社のパーツがロシアに迂回輸出されている事を一部否定した。
これにより、カザフスタンから迂回輸入は無くなり、次第にSu-30SMも飛べなくなるのではと思われたが、今年8月、ロシアのイルクーツク航空工場は新型のSu-30SM2多用途戦闘機を生産し、ロシア国防省に引き渡している。レポートの前なのでカザフスタンから迂回輸入したパーツを使って生産された機体と思われたがSu-30SM2は使用していた西側製パーツを全てロシア製に変えた純国産機になる。つまり、現行のSu-30SMもM2にアップデートすることでフランス製のパーツ要らずに運用ができてしまうことになる。