ロシアがウクライナ攻撃に初めて大陸間弾道ミサイル(ICBM)を使用したと報じられている。しかし、ロシア側はこれを否定、使用したのは新型の中距離弾道ミサイル(IRBM)と説明している。ただ、IRBMも初となる。
ウクライナ空軍は11月21日朝、ロシアがウクライナ東部の主要都市ドニプロのインフラ施設に向けて複数のミサイルを発射したと発表。その中にはロシア南部アストラハン州から発射された大陸間弾道ミサイル(ICBM)「RS-26」が含まれていたと報告した。事実だとすれば2022年2月にロシアがウクライナに侵攻して以降、ICBMを使用するのは初めてであり、人類史として実戦で使用するのは初だ。しかし、ロシアのプーチン大統領は21日、ICBMの使用を否定。攻撃には新型の中距離弾道ミサイル(IRBM)「 Oreshnik(オレニシュク)」を使用したと明らかにした。
So, that's what you wanted?
— Dmitry Medvedev (@MedvedevRussiaE) November 21, 2024
Well, you've damn well got it!
A hypersonic ballistic missile attack pic.twitter.com/lsKQHhMnif
ロシア元大統領でロシア連邦安全保障会議副議長のドミートリー・メドヴェージェフ氏は自身の公式Xで「それで、それがあなたが望んでいたものですか? そうです!よく分かりましたね!極超音速弾道ミサイル攻撃」と投稿している。アメリカ側もICBMではなく、IRBMが使用されたという見解を述べており、米国防省は発射数分前に核リスク削減チャネルを通じてIRBMの発射に関する事前通告を受けていた事を公表している。
IRBM オレニシュク
‼️ BREAKING: Ukrainian Telegram channels publish the first footage of the fall of combat parts of an ICBM in Dnipro. pic.twitter.com/MCG6ilNgqR
— NEXTA (@nexta_tv) November 21, 2024
ロシアが新たに開発した中距離弾道ミサイル(IRBM)「 Oreshnik(オレニシュク)」は大陸間弾道ミサイル(ICBM)の「RS-26 Rubezh」をベースに開発されたミサイルとされているが詳しいスペックは不明だ。RS-26は2011年に生産が始まった核弾頭を搭載したロシアの固体燃料式の大陸間弾道ミサイルで、弾頭には複数個別誘導再突入体(MIRV)を搭載。弾頭の最大速度はマッハ10を超える。ロシアはRS-26をICBMと定義しているが、実際はIRBMとされている。
米露は1987年に中距離核戦力全廃条約(INF)を締結。同条約は核弾頭、及び通常弾頭を搭載した射程が500~5,500kmの地上発射型の弾道ミサイルと巡航ミサイルの配備を禁止し、廃棄する事を取り決めたもの。RS-26の最大射程はこの定義を僅かに超える5800km。これは条約に触れないよう、テストで5800km先の標的に命中させ、射程5500km以上が定義となるICBMに分類し、条約の適用を免れた形だ。しかし、その後のテストでは全て5500km未満の標的に命中させており、実際の用途は中距離弾道ミサイル(IRBM)だとアメリカは批判していた。今回、ICBMではなく、IRBMを使用したのは「条約違反で違反ではないか?」と思うかもしれないが、INFは2019年8月に失効しており、現状、ロシアがIRBMを保有していても問題はない。
ただ、どちらにしてもIRBMによるウクライナへの攻撃は過剰スペックだ。発射されたとされるロシア南部アストラハン州からドニプロまでの距離は約800km。IRBMの定義は射程3,000~5,500kmであり、オレニシュクは最低でも3000kmの射程があることになる。短距離弾道ミサイル(SRBM)の射程が1000km未満になるので、SRBMでも十分射程に収まる距離だ。ロシアは最大射程500kmの短距離弾道ミサイル「イスカンデルM」を保有しており、ロシア領内からドニプロを余裕で射程に納める。では、なぜ。わざわざIRBMを使用したのか。それは西側への警告だろう。米英仏は供与している長射程兵器のロシア領内への使用を容認。今週には射程300kmの短距離弾道ミサイルATACMS、250kmの巡航ミサイルStormShadowによってロシア領内の軍事拠点が攻撃を受けた。西側の攻撃制限撤廃を受けてプーチン大統領は「核ドクトリン」を改訂。非核保有国が核保有国の助けを借りてロシアを攻撃した場合、「連合攻撃」とみなし、核抑止力が適用されるとして、核兵器使用の敷居を下げ警告している。IRBMはロンドンまで射程に納め、NATO欧州を標的に納める。いつでも核攻撃できるぞという脅しだろう。