ロシア軍は侵攻開始からこれまで2000発以上のミサイルをウクライナに撃ち込みましたが、巡航ミサイルはほぼ撃ち尽くしたとされ、経済制裁で半導体の入手も厳しいため生産が追い付いていません。弾道ミサイルも枯渇しつつあるようで、今度は地上攻撃に対艦ミサイルも使用。対艦とあるように本来は海上の艦船を狙うもので地上攻撃に使用するものではありません。そして、なんと、防空ミサイルでさえも地上攻撃用に持ち出しているようです。
Mykolayiv. 10:50 AM, July 8
— Віталій Кім / Vitaliy Kim (@vitalij_kim) July 8, 2022
That rocket attacks have become more frequent. The orcs are remaking S-300 missiles, there have many if them, they put GPS on them to shoot at the ground, it is not accurate because of this. And they shoot 12 rockets each. pic.twitter.com/wpcNby1YIH
ウクライナ南部のムィコラーイウ州の知事であるVitaly Kimは、一部のロシア軍がS-300防空ミサイルの機能を改修して、対地攻撃用のミサイルとして使用していると自身のTelegramとTwitterで述べました。キム氏はロシア軍が本来、空中の標的を迎撃するS-300にGPSガイダンスの機能を追加して、これまで地上目標に対して12発のミサイル攻撃を行いましたが、12発すべてのミサイルが故障したか、目標を破壊することはなく正確ではなかったと述べています。
S-300とは
S-300は航空機や巡航・弾道ミサイルと空中の標的の迎撃を目的とした防空システムです。目標捕捉・追尾レーダーとセットで運用され、レーダーが標的を補足すると標的情報をミサイルに入力。その情報をもとにミサイルは発射、慣性誘導と無線リンクによって誘導され、標的に近づくとミサイルのセミアクティブレーダーで終末誘導され、標的を撃墜します。射程はバージョンやミサイルによって異なりますが、1970年代に導入された初期モデルのS-300Pで47km、1990年代に導入されたS-300PMUで最大200kmの射程を有し、射程だけみれば巡航ミサイルや弾道ミサイルに近い射程を有します。しかし、これらの誘導機能、射程はあくまで空中を目標にしたものになります。
ロシア以外にもベラルーシ、ウクライナなど複数の国で運用されています。
対地攻撃兵器としては威力不足
S-300は空中標的を迎撃することを目的しており、基本的には対地攻撃には向いていません。まず、レーダーは地上の標的を検知、追跡することはほぼ不可能であり、地上目標に対し、従来の誘導機能を使用することはできません。そのため、新たにGPS誘導を追加、弾道ミサイルに近い形式になり、精度は良くありません。メリットとしてはミサイルや戦闘機を標的にしていることもあり、飛翔速度がマッハ5と従来の巡航ミサイルよりも速く迎撃が難しいという特性があります。しかし、S-300システムから発射されるミサイルは航空機、ヘリコプター、ミサイルといった飛翔体を撃墜するように設計された爆発性の高いフラグメンテーション弾になり、対地攻撃用の巡航・弾道ミサイルと比べるとその威力は弱く、コンクリートで固められたバンカーやビルを破壊することは難しいとされます。
2011年にはベラルーシ軍がS-300を地上攻撃兵器と使用する演習を初めて行っています。また、もともと、S-300は地上攻撃兵器として開発された経緯があり、地上攻撃兵器として決して使えないものではありません。
巡航ミサイルが枯渇
ロシア軍司令部が防空システムの一部を対地攻撃ミサイルとして使用することを決定した理由にはさまざまな推測があります。西側の専門家によると、その理由は巡航ミサイルの在庫が枯渇しつつあるとういうこと。そして、もう1つが巡航ミサイルの製造に必要な部品や半導体が不足しているために、新しいミサイルの生産が間に合っていないという理由です。
ただ、S-300も巡航ミサイル同様に高度な半導体を必要とし、在庫が少なくなれば生産は難しくなります。しかし、ロシアの防空ミサイルは新しいS-400に移行しつつあり、空の脅威も少ないことから、S-300の在庫に余力がまだあるというのが理由かと思われます。
ロシア軍はこの他、対艦ミサイルのKh-32を地上目標に使用しています。対艦ミサイルは洋上の艦船を狙う兵器で、固定の地上目標を狙う巡航ミサイルよりも高価で高機能化されており、固定目標を狙う上では費用対効果が悪い兵器です。しかし、ウクライナ海軍の艦船がほぼ機能していなく、対艦ミサイルを使用する機会がほぼないことから巡航ミサイルに代わり使用されていると思われます。
ウクライナ軍が西側の援助により、長射程の榴弾砲をいくつも配備しており、これら砲兵の射程範囲外から安全に地上を目標をスタンドオフ攻撃するにはこれらのミサイルを使用せざる負えない状況があります。
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