
ロシアは1947年にソ連のアントノフ設計局によって開発された複葉機であるAn-2のエンジンの近代化を発表した。しかし、近代化といいながら、搭載されるエンジンは旧ソ連時代に開発され、既に生産停止していた物を再生産する形だ。
ロシア国営メディアのTASS通信の報道によれば、ロシアのアントン・アリハノフ産業貿易大臣は2月27日、An-2複葉機を近代化するためにTVD-10ターボプロップエンジンを再び生産する計画を発表した。An-2は1947年に開発された軍用機で1950年の朝鮮戦争から現在も現役の軍用機として使用されている。とはいえ、流石に古く、ロシア軍はこれをLMS-901 バイカル軽量多用途航空にき置き換える予定だったが、設計上の問題に直面、搭載するVK-800Nエンジンは2008年に開発が始まるも難航。アリハノフ産業貿易大臣は2026年に最初の機体が納入されると述べているが解決には最大5年かかる可能性があると現地メディは報じており、An-2は少なくとも2030年初頭まで運用を続ける必要性がある。そのためには古くなったエンジンを改修する必要があった。An-2の基本形には1937年に量産が始まったシュベツォフ ASh-62IR空冷9気筒レシプロエンジンが搭載されている。
TVD-10エンジン
再生産が決まったTVD-10ターボプロップエンジンは1965年にオムスクエンジン設計局(OMKB)によって、Ka-25ヘリコプターに使用されていたGTD-3Fエンジンに基づいて開発され、1969年に量産が始まった。離陸時の出力は1025馬力、プロペラ出力は960馬力。燃料消費率は1時間あたり0.255kg/hpと非常に燃費が良い。構造が比較的単純で、耐久性のある設計になっており、50年に渡り、稼働する事ができるとされる。再生産されるエンジンは構造上の特徴は同じだが改良された「TVD-10B」になり、離陸出力は1,025馬力、10,000飛行時間の動作寿命、2,000時間のメンテナンス間隔、1,500時間のオーバーホール間隔で設計される。
アントノフAn-2複葉機
Парад в Волгограде завершился пролётом над площадью Павших Борцов самолётов Ан-2 pic.twitter.com/MUVYI6O90q
— RT на русском (@RT_russian) February 2, 2023
アントノフAn-2は戦後の1947年にソ連のアントノフ設計局によって開発された複葉機。もともとは農業、林業用の農薬散布機として開発されが、その高い耐久性、高い揚力性、滑走路を必要とせずに離発着できる利便性から軍用機としても人気を博することになる。ソ連で1960年まで5000機が生産された時点で生産終了した、ポーランドや中国でライセンス生産が引き続き行われ、2001年までに述べ2万機近い機体が製造されたとされる。
An-2は1950年代の朝鮮戦争、1960年代のベトナム戦争で輸送機、空挺部隊用の機体として投入され、ベトナム戦争では北ベトナム軍が機銃やロケットを装備して攻撃機としても使用された。1991年のクロアチア独立戦争ではクロアチア空軍がその場しのぎの爆撃機として使用している。
複葉機のプロペラ機は現代では時代錯誤の機体だ。しかし、以外にもまだ人気が高く、中古市場でも活発に取引されている。An-2は最大速度253km/h、巡航速度185km/hと鈍足な上、機体はほとんど木と布でできており、軍用機としては装甲が貧弱。しかし、金属パーツが少ない分、レーダーに探知されにくいという利点がある。そして、離発着距離が短く、離陸距離は150m、着陸距離は170m、滑走路がない不整地でも離発着が可能だ。12名の兵員を輸送できる事もあり、空挺部隊用、特殊作戦用の機体として、未だ需要があり、ロシア軍でも空挺部隊の機体として空挺機動歩兵旅団と呼ばれる特殊部隊がAn-2を使用しているとされ、その数は200機にも及ぶ。また、低速飛行能力は今後、対ドローン用航空機として需要が増える可能性がある。