ロシア海軍、半世紀に渡って維持したシリアの戦略的要衝タルトゥース海軍基地から撤退

ロシア海軍がシリアの戦略的要衝であるタルトゥースの海軍基地から撤退した事が確認された。アサド政権への支援を約束しているプーチン大統領だが、シリアでは反政府勢力の進攻が続いており、同基地にも脅威が迫りつつある中、予防的措置、つまり、同港から艦艇を撤退させたと推測されている。ロシア海軍の大規模撤退は今年二度目だ。

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11月27日に始まったシリア反政府武装組織による攻勢。奇襲をくらう形になったアサド政府軍はシリア第二の都市アレッポを制圧される。反政府派勢力は首都ダマスカスに向けて南進。12月5日には中部に位置するシリア第4の都市ハマー市を制圧した。そこから西に100km程の距離にあるのが港湾都市タルトゥースになり、ここにはロシア海軍基地がある。反政府軍が迫る中、ロシア軍はここに駐留していた艦隊を同港から退避させた事が衛星画像で確認されている。同港にはゴルシコフ級フリゲート艦2隻、グリゴロヴィチ級フリゲート艦1隻、補助艦2隻、改キロ級潜水艦1隻の6隻が駐留していたが、11月30日には停泊していた艦船が12月2日の衛星画像では確認できなくなっていた。艦隊がどこに行ったかは不明だが、もし、タルトゥースを放棄したのであれば、ロシア海軍は半世紀に渡って維持してきた戦略上重要な拠点を失う事になる。

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地中海の拠点タルトゥース海軍基地

シリアの地中海沿岸にあるタルトゥース海軍基地は、ロシアにとって重要な戦略的要衝だ。同基地は地中海におけるロシア海軍唯一の修理・補給拠点海軍基地であり、ロシア海軍は1971年以来、この地に海軍基地を維持してきた。この基地のおかげで、わざわざ黒海まで移動することなく、補給や修理を受ける事ができた。冷戦後は必要性は低下しつつあったが、2011年にシリア内戦が始まると運用が再び活発化。2015年にアサド政権を支援するために軍事介入すると、運用が本格化する。支援のために空母アドミラル・クズネツォフ、キーロフ級原子力ミサイル巡洋艦ピョートル・ヴェリーキイからなる艦隊を派遣している。ロシアとシリアはロシアが地中海での海軍のプレゼンスを強化できるよう、ロシアに海軍施設の開発と拡張を許可。アサド大統領はロシアの核武装艦艇の中東恒久基地としてこの港を転用することに同意したと伝えられ、2017年に49年間無償で拡張・使用し、同基地に対する主権管轄権を享受することを認める。同年12月にプーチン大統領は同基地に恒久的な部隊を形成すると発表している。

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2022年2月にウクライナ侵攻が始まるとタルトゥース海軍基地の重要度は更に増す形に。戦争が勃発すると黒海の入り口であるボスポラス海峡を管理するトルコが同海峡の軍艦の通行を禁止。つまり、黒海艦隊以外のロシア艦艇は黒海での補給修理が不可能になり、地中海方面に南下する際はロシア海軍はタルトゥース基地に頼らざるを得ない状況になる。しかし、反政府勢力が迫る現在、同基地の存在が危ぶまれている形だ。ウクライナ侵攻前なら、追加部隊を派遣して、基地の防衛を強化。反政府勢力を押し返す事もできたであろうが、現在のロシア軍にその余裕はない。艦隊を退避させた事がそれを表している。退避した艦艇は一旦、北アフリカの友好国であるアルジェリア、若しくはリビアの港に退避したと推測される。

ロシア海軍が大規模撤退するのは今年二度目であり、ウクライナのミサイル攻撃にさらされていた黒海艦隊が今年7月、拠点であったクリミア半島のセヴァストポリから撤退し、東のクラスノダール地方のノヴォロシースクに艦隊を退避させたことが確認されている。

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ロシア海軍、半世紀に渡って維持したシリアの戦略的要衝タルトゥース海軍基地から撤退
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