長引くウクライナとロシアとの戦争、そして、それによる西側のロシアへの制裁はロシア軍に大きなダメージを与えていますが、これはロシアだけではなく、中国の軍事面にも負の影響を与えつつあるようです。
米国空軍のシンクタンクであり、中国の空軍および、宇宙戦略に関する調査研究をする機関「中国航空宇宙研究所」が隔年で開催する会議が先日17日に開催され、ウクライナとロシアとの戦争がこのまま続く場合、中国人民解放軍の戦闘機の最大40%に影響を与える可能性があると会議に出席した専門家が述べたと空軍マガジンが報じました。中国軍の戦闘機の数は約2000機とされ、その40%というと約800機になります。
国内優先で輸出する余力はない
近年、目まぐるしい勢いで国産兵器の開発を進める中国ですが、つい最近まで中国の兵器開発はソ連、ロシアから兵器のライセンス供与を受けるか、ロシア製兵器をリバースエンジニアリングして真似て開発するのが主流でした。現在でも肝となる技術はロシア頼みのところがあり、戦闘機やヘリの基幹となるエンジンについてはまだ完全な技術を持ち合わせていなく、ロシアからの輸入に頼っています。
会議の報告によれば、ロシアは1992年から2019年にかけて、ヘリコプターや軍用機用のエンジンとして中国に4,000基近いエンジンを納入しています。しかし、このエンジンの供給が今回のロシアのウクライナ侵攻、それに伴う経済制裁で滞るのでは同研究所は推測しています。まず、経済制裁でロシアはエンジン製造に必要な高度な部品を西側から輸入しずらくなっています。また、当初、圧倒的と思われたロシアの航空戦力ですが、西側からウクライナに大量の携行式対空ミサイルが提供されたこともあり、苦戦。数百機以上の航空機とヘリコプターを損失、更に機体の負荷も増しており、自軍の戦力回復とメンテナンスが最優先で中国のためにエンジンを製造する余裕がないとされます。
耐久性が低いロシア製エンジン
ロシア製エンジンは耐久性低いことで有名で、機体寿命が尽きるまでに数回のエンジン交換が必要であり、そのため機体は安いがメンテナンス費が高いとされます。中国の主力戦闘機であるJ-11、J-15、J-16はそれぞれ、ロシアのSu-27、Su-33、Su-30K2をベースにした機体でロシア製エンジンを使用しています。国産開発とされるJ-10もエンジンはロシア製です。ロシアからのエンジン供給、およびメンテナンスパーツの供給がストップすれば、これらの運用に支障をきたすことになります。
中国は近年、国産エンジンの開発に力を入れており、国産の第5世代ステルス戦闘機「J-20」当初、ロシア製エンジンを搭載していましたが、量産モデルでは国産のWS-10エンジンに切りかえています。しかし、まだ運用実績が少ないため、その信頼性は不透明です。過去、国産エンジンを搭載したJ-11Bはエンジンの信頼性に問題があり、現在開発の第5世代戦闘機の艦載機モデル「J-31」にはロシア製のエンジンを採用するなど中国製の国産エンジンは完璧ではありません。
研究所のデビッド・R・マルコフ氏によれば、中国の科学者、エンジニアの多くは20代後半から30代前半であり、経験や知識が不足。それを補うために、中国はロシアから専門家を呼び寄せていますが、お金で解決できるものではなく、「現代の航空エンジン、特にスーパークルーズの戦闘機エンジンは、科学よりも芸術であるということを中国は理解していない」と述べています。J-20に搭載されているWS-10エンジンにスーパークルーズの能力はなく、それを持つWS-15エンジンの開発に苦労しているとされます。中国はスーパークルーズエンジンを持つロシアの第4.5世代戦闘機Su-35を購入しましたが、これは戦力としてではなく分析のためだと考えられるとマルコフ氏は述べています。
エンジンの問題は数年で対応できるものではなく、ロシアの窮地が長引けば、中国の戦闘機の稼働率は今後、大きく低下すると思われます。もちろん、これはロシア製戦闘機を採用する他の国にも言えるでしょう。
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