台湾陸軍のヘリコプターパイロットである中佐がヘリに乗って中国海軍空母「山東」への亡命を企てていた事件。中佐は米国製の大型輸送ヘリCH-47チヌークを土産に中国に亡命しようとしていたことが分かった。
台湾メディアによれば国防部軍事保安隊と高等人民検察院は、今年7月末に中華民国陸軍の大型輸送ヘリCH-47SDチヌークのパイロットである中佐が中国への亡命を計画していていたことを明らかにした。中佐は中国共産党のスパイとされるビジネスマンと知り合い、タイに招待され、そこで中国人民解放軍の上級大将と広州軍区の司令官と主張する2名の国家安全当局者と面会。その際、当局者は中佐に、家族を含めたタイの永住権付の査証と1500万ドル、日本円で22億円の報酬と引き換えに演習中にCH-47ヘリで中国海軍の空母「山東」に着艦する形での亡命を提案。山東が台湾の接続水域に近づいたら、CH-47チヌークを海岸線に沿って低空で飛行するよう指示した。山東は実際、今年6月21日に台湾海峡を通過しており、そのタイミングを狙っており、了承すれば前金として100～200万ドルを支払と提案したが、中佐はリスクが高いとして見送った。7月に再度、どうやって亡命するか中佐と当局者はビデオ通話で計画を練っていた。しかし、内部告発により、中佐の亡命計画が判明。中佐は8月にスパイ容疑で逮捕された。
CH-47チヌーク
アメリカのボーイング社によって開発製造されているタンデムローター型の大型輸送ヘリコプター。”チヌーク”という愛称で1962年に米軍に採用され、以降、半世紀が過ぎた今でも改良やバージョンアップを重ね生産・運用されており、2021年には最新のCH-47Fが登場している。CH-47の特徴はそのペイロード能力になり、兵士なら33名、最大55名の人員を乗せることができ、その輸送能力から災害時にも活躍できる。小型の車両なら機内に格納でき、装甲車や155mm榴弾砲といった最大10トンまでの装備をロープで吊り下げて輸送することも可能だ。世界で929機が運用されている。台湾で運用されているのはシンガポール軍向けに航続距離を延長、より高い積載量を得るよう改良されたCH-47SDになり、2001年から2003年の間にかけて9機購入している。2008年12月に事故で1機失っており、現在は8機体制になる。
3名で亡命する計画だった？
中佐は訓練中に紛れてCH-47を操縦して中国海軍の空母「山東」に着艦して亡命する計画だったが、通常、任務でCH-47を飛ばす場合、最低でも操縦手、副操縦手、航空機関士の3名が必要になり、一人で飛ばすことは許可されない。つまり、亡命を成功させるには他の乗員2名を説得するか、欺く必要がある。空母への着艦まで欺くことは不可能であり、中佐の亡命計画の発覚が内部告発だったことを考えると他の2名が亡命を持ち掛けられ、告発した可能性がある。
また、この亡命計画にはいくつか矛盾が指摘されている。まず、中国海軍の艦隊、特に空母打撃群が台湾海峡、接続海域近くを航行する場合、台湾軍は警戒態勢に入り、監視が厳重になる。その状況で対空戦闘能力が弱いヘリコプター、特に大型輸送ヘリであるCH-47を海上に飛行させることはほぼなく、飛行の時点で台湾軍は異変に気付き、ヘリに通信、戦闘機を発信させ、追撃に当たると思われる。かといって中佐のCH-47の飛行予定に合わせて空母を向かわせることもほぼ不可能だ。空母は艦隊行動が基本であり、そんな臨機応変に対応できない。また、台湾海軍にはCH‐47が着陸できるような広いヘリ甲板をもった艦船はない。それもあり、CH-47のヘリパイは洋上の艦船に着陸する訓練を受けていないので、リスクは高い。ちなみにCH-47の航続距離は1000kmだ。それに対し、台湾海峡の幅は150km。空母に着艦するよりも、海峡を渡ってしまった方がリスクは大分低いように思われる。
また、中国がCH-47をなぜ求めたのが謎だ。ボーイング社は1980年代にCH-47の民間バージョンを中国企業に売り込んだが、契約に至らなかった。また、中国の友好国であるイランは親米時代に購入した初期モデルのCH-47を45機保有しており、イラン経由でCH-47の情報を得ることも可能だ。台湾のCH-47SDも1998年に発売されたモデルで最新ではない。今回の亡命計画にはいろいろ矛盾が指摘されている。
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