イランのライシ大統領を乗せたヘリコプターが19日、イラン北西部の山岳地帯に墜落し、ライシ大統領と同乗していた外相を含む9人全員が死亡した。墜落原因は現場の悪天候が原因とされているが、大統領が乗っていたヘリコプターが半世紀前の古い機体であったことも注目されている。
This video has all three figures that were together in Presidential helicopter of Iran. If this is the latest from Raisi's visit than it is strange that
— Dr. Syed Mohd Murtaza (@syedmohdmurtaza) May 19, 2024
Ibrahim Raisi was travelling in a Bell Huey 212/214 helicopter. President of Iran mostly use Mi-8/17 for long range flights. pic.twitter.com/spk7VtWUiy
国営メディアのイラン通信(IRNA)の報道によれば、ライシ大統領らはアメリカ製のベル212ヘリコプターに乗って移動していたと指摘している。このヘリはベトナム戦争時代にアメリカ軍が使用していた「UH-1Nツイン ヒューイ」の民間仕様で世界中で広く使用されたヘリになる。ただ、ベトナム戦争で使用されたというように、ヘリコプター自体は1970年代に広く普及した機体で半世紀前の機体な上、イラン特有の特殊な事情を抱えていた。
イランのベル212は親米国家時代に購入したもの
ベル212はアメリカのヘリコプターメーカーBell社によって1960年代に開発された双発タービンの汎用ヘリコプター。前身のベル 204/205、ベトナム戦争でアメリカ軍が使用していたUH-1イロコイを双発化、改良したモデルでアメリカ軍では「UH-1Nツイン ヒューイ」として採用された。1970年から量産が始まり、1998年までに延べ1000機以上が生産された。ベル212は最大15人が搭乗でき、人の輸送を始め、貨物の輸送、消火ヘリ、武器の搭載など、あらゆる種類の状況に適応できるように設計されており、民間から警察、消防、法執行機関などに採用された。
イランでは親米派のモハンマド・レザー・シャー皇帝が治めていた1976年にイタリアでライセンス生産されたベル212を導入したとされている。しかし、その後、1978年にイラン革命が起き、反米政権が樹立するとアメリカ製の物は購入できなくなり、それは現在も続いている状況だ。つまり、イランのベル212は少なくとも1978年以前に購入された機体という事になり、生産から半世紀を迎えようとしている。とはいえ、ベル212は各国でまだ現役であり、日本の海上保安庁は1973年に導入してから2015年まで運用していた。問題なのはイランでのベル212の整備状況だ。1979年にアメリカと断絶した事でベル212の機体サポートは受けられなくなっている。つまり、故障しても交換用の部品の調達ができない状態だ。つまり、イランはこれまで、ほぼ独学でメンテナンスを行ってきた。これはベル212に限った話ではない。親米国家時代にアメリカから購入したF-14トムキャット、F-4ファントムII、F-5E/FタイガーIIといった戦闘機、CH-47チヌークといった大型ヘリも同様でイランは密輸部品とリバースエンジニアリング、共食い整備を行いながら、これらアメリカ製の機体を今もなおを使用し続けている。しかし、それでも機体は限界を迎えており、近年は事故が多発している。イランは他にもベル206、ベル214といったヘリコプターがあるが、どれもベル212と同じく親米国家時代に購入したものだ。唯一、米国製以外であるのが、ソ連のMi-17輸送ヘリだが、これは国軍とは別のイスラム革命防衛隊(IRGC)が保有する機体だ。Mi-17でもライシ大統領が移動する様子は過去、確認されている。
IRNAの報道によれば、ザリフ元イラン外相は自国に制裁を続けるアメリカに今回のヘリコプター墜落事故に責任があると主張している。これまで述べたようにアメリカ主導の経済制裁のせいでヘリコプターの部品が調達できないなど、整備に支障をきたし事故を招いたという理由だ。「アメリカの犯罪はイラン国民の心と歴史に記録されるだろう」と述べている。もちろん、これは根も葉もない主張である。墜落の主な要因は悪天候にあるとされ、事件当時、墜落現場は濃霧で視界が悪く、視界不良が原因と推測され、機体は山肌に激突している。