中国の海洋進出が高まる今、インド海軍は中国に対抗すべく原子力潜水艦の開発と合わせ、「非大気依存推進(AIP)」システムを備えた次期通常動力型潜水艦「P75i潜水艦」6隻の建造計画を進めています。2007年に始まった計画は度々延期されていましたが、2017年になって、潜水艦の建造で高い実績と技術力を誇る、日本、ロシア、フランス、ドイツといった6カ国の造船メーカーに「非大気依存推進(AIP)」システムを備えた潜水艦6隻の建造について打診します。AIPは原子力を使用しない通常動力艦で、内燃機関の作動に大気中の空気を取りこむ必要が無いため、浮上せずに長期間潜行できるタイプの潜水艦で、最近の通常動力潜水艦としては主流のモデルです。入札にあたり、インドは条件として国内メーカーと組み、国内で造船すること、仕様として潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を発射できる垂直ミサイル発射システム(VLS)の搭載が求めらました。
こういった条件もあり、輸出を希望していた日本は撤退、その他、ドイツやスウェーデンのメーカーも撤退しています。そして、最終的に入札に参加したのはフランス、韓国、スペイン、ロシアの4カ国になります。
フランス シュフラン級潜水艦
フランスが提案しているのは同国の国営企業NAVAL社が開発製造するシュフラン級潜水艦(バラキューダ級とも呼ばれる)です。シュフラン級というとフランス海軍のシュフラン級原子力潜水艦を思い浮かべますが、通常動力型タイプの”ブロック1A”もあり、これは先日、オーストラリアがフランスと契約破棄して話題になった「アタック級潜水艦」と同型モデルになります。原子力潜水艦をベースにしていることもあり、船体は4カ国の中でもっとも大きく全長97m、幅8.8mになります。そのため、VLSの設置は難しくない、従来モデルはVLSが搭載されます。フランスのAIPシステムには、水素を作り出すディーゼル改質装置エンジンを備えた燃料電池を搭載しているため水素を貯蔵する必要がありません。また、特殊部隊を水中から秘密裏に展開するための2つのドライデッキ・シェルター(DDS)や無人潜水艇も搭載することが可能です。フランスにとってはオーストラリアとの総額4兆円に及ぶ契約が破棄された今、何が何でも取りたい契約でしょう。
韓国 DSME3000潜水艦
South Korea tested a SLBM from the Dosan Ahn Chang-ho submarine today, including a test of a long-range air-to-surface missile. pic.twitter.com/9wTX0G50NI
— Global: MilitaryInfo (@Global_Mil_Info) September 15, 2021
韓国が提案するのは大宇造船海洋社が開発、現代重工業が製造する島山安昌浩級潜水艦の輸出版であるDSME3000潜水艦です。 島山安昌浩級は2021年8月に韓国海軍に就役したばかりの新鋭艦ですが、近年、武器輸出で成果を上げる韓国は早くもインドネシアから契約を受注しています。全長83.5m、幅9.6mはシュフラン級に続く大きさです。ドイツベースのディーゼルエンジンと燃料電池で推進するAIPシステムを搭載。更にリチウムイオンバッテリーにも適合しており、これは日本の”そうりゅう型おうりゅう”に次いで二例目です。リチウムは蓄電量が多く、他の燃料電池よりも水中航行能力が長くなるメリットがあります。VLSを搭載しており、今年、韓国軍はSLBMの発射を成功させていますが、輸出版であるDSME3000ではVLSの機能を排除しています。今回の入札にあたり、VLSの機能の有無がどうなっているのかは不明です。
スペイン S-80-Plus級潜水艦
スペインが提案するのは同国国営のナバンティア社が開発製造する S-80-Plus級潜水艦です。スペインの新鋭艦ですが、新型コロナのため建造が遅れており、2021年4月に進水したばかりで、スペイン海軍でもまだ就役していません。AIPシステムにバイオエタノール改質装置を備えた燃料電池を搭載しており、シュフラン級同様に水素を貯蔵する必要がありません。しかし、まだ海洋でAIPのテストができていません。全長78.5m、幅11.8mとこれまでの2隻と比べると小型になり、スペック上はVLSは搭載されていません。しかし、魚雷発射管から対地攻撃用巡航ミサイルのトマホークや対艦ミサイルのハープーンが発射可能です。2022年に航海テスト、スペイン海軍への引渡しは2023年になる予定で、実績がない同艦が採用される可能性は低いかもしれません。
ロシア アムール型潜水艦
ロシアが提案するのはルビーン・デザインビューロー・アムール造船所が開発製造するラーダ型潜水艦の輸出版であるアムール型潜水艦です。 ラーダ型はロシア海軍にて2010年に就役しており、既に長い実績を有します。インドでは前級のキロ型潜水艦の輸出版であるシンドゥゴーシュ級潜水艦を現在運用しており、引き継ぐ上ではスムーズです。全長58.5m、幅5.65mとこれまでの3つの艦の中でも最も小さいですが、VLSを標準装備しています。しかし、AIPシステムは標準でありません。しかし、全長を10m長くすることでAIPシステム用の区画を作って搭載させることはできるようです。インドは独自のAIPシステムを持っているのと、ロシアとは長年、様々な兵器で共同開発、製造を行っており、障害は少ないと思われます。インド海軍の潜水艦は圧倒的にソ連・ロシア製が占めており、それは陸と空も同様です。このような関係から、ある程度のスペックを無視していも、政治的関係からロシアが最有力と目されています。