50億ドルという巨額を投じて新しいアメリカ大統領専用ヘリコプター「Marine1(マリーン・ワン)」として開発生産された米海兵隊の「VH-92パトリオット」が、とある問題によって、ホワイトハウスに発着できず、大統領が搭乗できない事態にあります。
ブルームバーグなど複数のアメリカメディアの報道によると、新しいマリーン・ワンであるVH-92パトリオットは回転するローターとエンジンの排気ガスの熱によって着陸場所の草を焦がしてしまうため、ホワイトハウスに着陸できません。「マリーン・ワン」は、ホワイトハウスの南側にあるサウスローンという名の庭の芝生に発着しますが、この問題があるため、使用できず、VH-92パトリオットは大統領を乗せることができません。この問題はトランプ政権時の2018年に発覚しましたが、米議会会計検査院(GAO)は2020年6月の報告書で、「損害を与えることなくホワイトハウスの南芝生に着陸するための要件を満たせることを証明できていない」と報告。報告書では、特定の条件下では、補助パワーユニットやエンジンの排気によって発生する高温が芝生にダメージを与え続ける可能性があると述べています。国防総省の戦闘試験・評価部門も2021年初めに同様の見解を示していますが、未だにその問題は解決しておらず、バイデン政権はこの問題が解決するまでホワイトハウスから発着するヘリ移動は未だ旧式のVH-3Dシーキングを使用しています。
マリーン・ワン
米国大統領専用ヘリコプター「マリーン・ワン」は、アメリカ大統領や要人、その関係者を運ぶために特別に設計されたヘリコプターです。”Marine One”は実際はコールサインであり、”Marine”はアメリカ海兵隊のことを指し、”One”は大統領が搭乗する唯一のヘリコプターであることを示しています。副大統領が乗っている場合は”Marine Two”と呼ばれます。このヘリコプターは、大統領の安全と利便性を確保するために高度なセキュリティ対策が施されています。マリーンワンとしての最大の特徴はミッション通信システム (MCS)になり、MCSは世界中のどこでも中断することなく、非常に高いデータレートで安全な暗号化通信を提供します。これにより、大統領、副大統領、その他の高官は飛行中も政府の指揮系統と連絡を取り合うことが可能です。マリーンワンは通常、海兵隊のパイロットが操縦を担当します。主にホワイトハウスから大統領専用機エアフォース・ワンの拠点であるアンドルーズ空軍基地や大統領の別荘であるキャンプ・デービッドへの移動に使用されます。
VH-92パトリオット
VH-92パトリオットは1978年から使用されているシコルスキー社のVH-3Dシーキング、1989年から使用されているVH-60Nプレジデントホークに代わるマリーンワン・ヘリコプターとして2014年に採用が決定した機体で、ロッキード・マーティン社傘下のシコルスキー社によって開発生産されています。
VH-92は日本企業も参加し、1990年代に開発された汎用/輸送ヘリコプターのS-92をベースに開発された機体で大統領専用機としてエグゼクティブインテリア、高度な通信システムやセキュリティ対策を備え、大統領やその関係者を安全かつ効率的、快適に運ぶために設計されています。乗組員は4名で定員は14名。VH-92の詳細なスペックは公開されておらず、S-92のスペックだと巡航速度は280km/h、最大速度は306km/h、航続距離は998km、ペイロードは最大4.5トンです。
2021年4月に政府試験が完了し、米国海兵隊は2021年12月28日にホワイトハウスに対してVH-92Aの初期運用能力(IOC)を宣言。2022年5月までに最初の6機が納入されます。ホワイトハウスはプロトタイプ2機を含む、計23機を発注しており、2024年中に全機納入される予定です。購入総額は約50億ドルで、1 機当たりの平均費用は2億1800万ドルです。
2024年中にマリーン・ワンとしての役目をVH-3DとVH-60Nから完全に引き継ぐ予定でしたが、芝生を焼く問題があり、ホワイトハウスでの発着ができないため、未だにバイデン大統領を乗せる事はできず、引き続きVH-3DとVH-60Nがマリーンワンを担っています。VH-92には大統領本人ではなくホワイトハウス職員かシークレットサービス職員のみが搭乗し、着陸は舗装された路面に制限されており、マリーンワンとしてはバックアップの地位に留まっています。ブルームバーグによるとロッキード社の広報担当者メリッサ・チャドウィック氏は、修正が見つかったと述べており、すぐにテストを開始する述べています。