
2022年4月14日、ウクライナ軍はロシア海軍黒海艦隊の旗艦で首都の名を冠するミサイル巡洋艦モスクワを撃沈した。当時、劣勢で海軍戦力を失っていたウクライナが黒海艦隊の象徴である艦船を撃沈した事は世界を驚かせ、ウクライナ国民の士気を上げたが、この攻撃に当時、アメリカがかなり激怒していた事が分かった。
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— Азов South 𝕏 (@Azovsouth) February 24, 2023
14 April 22
The first footage appeared on the network showing Russia's and Putin' pride (Black Sea Fleet flagship #Moskva sinking).
This one was hit by 🇺🇦Ukrainian made R-360 Neptune subsonic anti-ship cruise missile with all-weather capabilities. pic.twitter.com/UauW8rEQ89
ニューヨークタイムズ紙の3月29日の報道によると、2022年4月中旬、アメリカとウクライナの海軍士官が定例の電話会談を行っていたところ、レーダー画面に予期せぬものが映ったという。元アメリカ軍高官によれば、それを見たアメリカ軍士官は「ああ、あれはモスクワだ!」と言い、ウクライナ軍士官は「オーマイゴッド。どうもありがとう。さようなら 」と言ったと回想している。ウクライナ軍は黒海でロシア海軍黒海艦隊の旗艦であるミサイル巡洋艦モスクワを沈めた。この出来事は、全面戦争開始以来、最初のウクライナの大きな勝利の一つと考えられている。会議に参加していたウクライナ軍士官がモスクワ攻撃の作戦計画を知っていいたかは定かではないが、アメリカ軍士官は寝耳に水だったようで、アメリカ軍の中にそれを事前に知る者はいなかったとされる。巡洋艦モスクワの撃沈を知ったアメリカは、攻撃に関してウクライナ側から事前共有、警告が無かった事に激怒したとされる。
巡洋艦モスクワの位置情報はアメリカからもたらされたものであり、事前にアメリカと調整する予定だったと報じられている。しかし、ウクライナメディアによれば、ウクライナ海軍報道官ドミトロ・プレテンチューク氏はこの報道を否定している。「情報は真実ではありません。まず第一に、我々は巡洋艦モスクワの位置に関する座標をアメリカから一切受け取っていませんし、黒海艦隊のこの旗艦を破壊する作戦は完全に海軍のみによって計画され実行されました。もちろん、我々は適切な許可を得て、指揮系統に従って最高指導部と攻撃の決定を調整しました。そして当然ながら、その指導部はウクライナ人で、我々は攻撃を実行しました。したがって、調整や正確な座標と位置の提供に関する主張は真実ではない。そのような行動は事前に調整する必要があったという主張も同様です。」と述べている。つまり、攻撃はウクライナ軍単独で行われたという主張だ。

そして、ウクライナ軍が黒海の沖合100km先に停泊する艦船を正確に狙え、攻撃できるミサイルを保有していた事にアメリカは驚いたとされる。攻撃はウクライナ国産の巡航ミサイル「ネプチューン」によって行われた。同ミサイルはソビエト連邦製のKh-35対艦ミサイルを改良したもので、射程は280km。2015年にキーウで開かれた防衛展示会で初めて披露され、2020年12月にはインドネシアと供給について覚書を締結。2021年3月にウクライナ海軍に配備されていた。この事から特にウクライナが極秘に開発していた兵器ではなかった事が分かるが、アメリカ側が把握していなかったのか、性能を見誤っていた可能性がある。
また、この時は開戦から2か月も経っていない時期であり、西側はまだ状況を見定めており、ウクライナへの軍事支援に慎重だった。ロシアの核の脅しもあり、西側は状況をエスカレーションさせる支援に対して躊躇。当時、ウクライナ軍に供与されていた兵器のほとんどは小火器だった。この時、バイデン政権はロシア海軍の力の象徴である旗艦をウクライナ軍に攻撃させる意図はなかったため、巡洋艦モスクワの沈没はアメリカ側をパニックに陥れたとされ、この出来事は、戦争の最初の数か月におけるウクライナとアメリカの関係の不安定な状態を反映したものでもあったと同紙は述べている。
ロシアによる侵攻開始後にアメリカが援助を提案したとき、ウクライナ側は大きな不信感に直面したとされる。「我々はロシアと戦っている。あなた方はそうではない。なぜ我々があなた方の言うことを聞かなければならないのか?」と、当時のウクライナ陸軍司令官オレクサンドル・シルシキーは、アメリカとの最初の会談で語ったとされる。ただ、直ぐにアメリカからの軍事支援、情報共有が必要不可欠である事を認識、様々な問題を経ながらも同盟関係を強固にしていったとされ、全面戦争勃発から2か月後、ウクライナの将軍たちがドイツのヴィースバーデンを訪れ、そこで米軍と情報、戦略、計画、技術面で協力することに合意したと報じている。
紆余曲折を経ながら築いたウクライナとアメリカの関係もトランプ政権になり揺らいでいる。今年3月、トランプ大統領はセレンスキー大統領との停戦交渉が決裂した事をうけ、ウクライナへの軍事支援を一時的にストップする。米軍からの情報共有もなくなり、偵察衛星も利用できなくなると、ウクライナ軍はロシア軍の動向が把握できなくなり、制圧しているロシア領クルスクの大部分を失うことになり、奇しくもアメリカからの情報の重要性を再認識される事になった。
アメリカ主導で進めていた停戦交渉は今のところトランプ大統領が思い描くような形で進んでおらず、トランプ氏はプーチン大統領に苛立ちを露わにしている。ゼレンスキー大統領がロシアを信用してはならないと忠告した事が現実になっている。しかし、トランプ氏の対応は今のところ追加関税の方針だ。これまで西側からの経済制裁もものともせず、戦争を継続しており、これ以上の経済制裁はあまり効果が無い事は明らかだ。