アメリカ空軍は幾度にも渡る交渉の末、米議会を説得し、21機のA-10サンダーボルトII攻撃機を退役させることに合意しました。21世紀になって初の退役になります。
米空軍は以前からA-10サンダーボルトII攻撃機の大規模退役を望んできましたが、その都度、議会の反対にあい、断念せざるを得ませんでしたが、今回、ようやく議会の説得に成功し、退役を認めさせることに成功しました。
近接航空支援 (CAS) 航空機として開発されたA-10
ベトナム戦争で空対地攻撃を行う中で従来のジェット機型の戦闘機では速度が速すぎ、高度が高すぎ、プロペラ機では運動性が不足し、どちらも近接航空支援 (CAS) に適さないとして開発が始まったのがA-10サンダーボルトII攻撃機です。近接航空支援航空機として1970年代に設計開発され、1977年に地上攻撃機として米空軍で運用が始まります。機体は頑丈な装甲で守られ、機首には強力なGAU-8 30mmアベンジャー ガトリング砲、最大6発のAGM-65 マーベリック空対地ミサイル、その他、誘導爆弾、対地ロケットを搭載できます。A-10が最も活躍したのが、1991年の湾岸戦争になり、約140機のA-10が参加、イラク軍の数千台の地上兵器、900両の戦車を破壊したとされ、戦車キラーとして名を馳せます。その後もアフガニスタン戦争、イラク戦争に参加、タリバンやISISの掃討作戦に参加、CASとして地上部隊を支援し、陸軍からは非常に人気の機体です。
老朽化した機体
A-10は1984年に生産がストップ、最も新しい機体でも40年が経ち、全ての機体は老朽化。運用を続けるには機体寿命を延長するためにオーバーホールを行い新しいパーツに換装し、現代戦に合わせデータリンク、レーダー、センサー、および武装といった幅広い近代化が行う必要があります。米空軍・州空軍のA-10は全機、2006年から2010年にかけてターゲティングシステムやグラスコックピットなど近代化改修が行われた281機のA-10Cになり、さらに2019年6月までに173機のA-10Cの翼を新しくしています。残りの機体も今後随時、更新される予定で、これによりA-10は全て2030年まで機体寿命が延長されます。米空軍は2021年に2030年代まで218機を運用し続けることを発表しています。
A-10はこれからの戦闘には通用しない
しかし、これらの延命は実は空軍の本意ではありません。2000年代に近代化したとは言え、現代戦に照らし合わせれば、性能は不十分であり、翼を更新していない機体は海外や戦場に派遣できるレベルではありません。2030年以降まで運用するのであれば更なるバージョンアップが必要です。また、根本的な部分として空軍が心配しているのが、今後の脅威となる中国の前ではA-10が生き残れないという点です。低速、低空を飛行するA-10の運用条件としてあるのが制空権の確保です。これまでの中東の軍事作戦は相手の空軍力が乏しく、防空システムも脆弱であったため、A-10の損耗は少なったのですが、高度な戦闘機と防空システムを持つ中国相手ではA-10が撃墜されるリスクが高くなります。そのため、米空軍はA-10を退役させ、浮いた費用とリソース、そして、その役割をF-35Bや無人機に置き換えたいと考えています。
そんな状況もあり、2014年から米空軍は議会にA-10の退役を5度に渡って要求。しかし、A-10の運用コストは低く、今でも戦場では有効であると主張する元軍人議員の反対もあって、それは跳ね返されてきました。昨年も米空軍は42機の退役要求を出していましたが、それも棄却されています。
ウクライナの状況で変化か
ウクライナ・ロシア戦争ではA-10と同じコンセプトで開発されたソ連製のSu-25攻撃機がウクライナ・ロシア両軍で多数撃墜されており、機種別では最多です。しかも、撃墜された機体の多くは地上の防空システムや兵士の持つ携行式対空兵器です。今回、議会がようやくA-10の退役の承認に踏み切ったのも、ウクライナの状況があった可能性があります。ウクライナぐらいの強度の戦場ではA-10は撃墜されてしまう、それはつまり中国やロシアを相手にした場合、同様の被害を被るかもしれないと。
とはいえ、今回退役した21機はインディアナ空軍州兵に所属する機体であり、しかも、まだ260機が残っているわけで、まだ数が多すぎるため、米空軍は更なら退役を望んでいます。