周囲を敵国に囲まれるイスラエルはこれまで何度もロケット弾、ミサイル、自爆ドローンの脅威に晒されてきた。その中で、イスラエルは独自に「Arrow（アロー）」、「David’s Sling（ダビデスリング）」、「Iron Dome（アイアンドーム）」という3つの防空システムを開発。この三段階の多層防空システムがあらゆる空中脅威を排除し、イスラエルの防空網は世界で最も強固とされている。
Arrow
Arrow(アロー)は主に弾道ミサイルを迎撃するために開発された”弾道ミサイル迎撃システム”。ヘブライ語では「Hetz（ヘッツ）」と呼ばれるイスラエルの多層ミサイル防衛システムの一つだ。イランのミサイル脅威を念頭にアメリカの軍事・資金支援のもと、イスラエルの軍需企業IAIによって1990年代に開発され、2000年から配備が始まった。弾道ミサイルの迎撃を念頭に置いており、その迎撃高度は地球の大気圏を超えており、イスラエルにとって最も重要なミサイル防衛層となっている。アローシステムは現在「アロー2」と「アロー3」の2つのモデルを運用している。アロー2は二段式の固体燃料ロケットモーターで最大速度はマッハ9、弾道ミサイルを射程100km、高度10-50kmの大気圏内で迎撃する。アロー3は更に迎撃高度が伸び、大気圏外で迎撃する。
弾道ミサイルはエルタ社のEL/M-2080「グリーン・パイン」フェーズド・アレイ早期警戒レーダーが検知、追跡。最大約500kmの範囲で目標を検出でき、3,000m/s（約マッハ9）を超える速度で飛行する30個以上の目標を追跡、レーダーは目標を捕捉し、アローミサイルを誘導、一度に最大14個の目標に向けてミサイルを発射できる。現在、イスラエル国内には3基のアローが配備中で、1基あたり半径100kmをカバーする計算で配置されており、イスラエル全土をカバーしている。しかし、10月1日のイランによる弾道ミサイル攻撃では短い時間で180発の弾道ミサイルが飛来し、数十発が着弾した。アローのミサイルランチャーは6連装で、いくつのランチャーが配備されていたかは不明だが、アローの処理能力を超える飽和攻撃だったとされている。
David’s Sling
David’s Sling（ダビデスリング）は中・長距離防空ミサイルシステムで戦闘機や無人機、巡航/弾道ミサイルの迎撃を役割としており、ヘブライ語では「魔法の杖」と呼ばれている。イスラエルの軍需企業ラファエル社とアメリカのレイセオン社によって共同開発され、2017年から運用が始まった。搭載されているスタンナーミサイルは2段式で、機首先端にレーダーと電気光学センサーの2つの照準誘導システムを搭載、短距離、中距離、長距離の空中脅威を低高度で撃墜するよう設計されており、射程は40〜300kmである。アローよりは劣るが、弾道ミサイルの迎撃能力も持ち合わせており、2024年9月、レバノンからヒズボラが発射した弾道ミサイルを迎撃しており、10月1日のイランによる弾道ミサイル攻撃にも使用されている。ミサイルの価格は100万ドルとされ、アイアンドーム同様、ダビデスリングは市街地や重要インフラを脅かす脅威のみを標的とする。イスラエル軍は現在配備している米国製のパトリオット防空ミサイルシステムを年内中に全て退役させ、ダビデスリングに置き換える計画だ。
Iron Dome
Iron Dome（アイアンドーム）は短距離防空ミサイルでロケット弾、無人機の迎撃を役割としており、3つの防空システムの中で最も多用されており、その戦果からイスラエルの防空ミサイルシステムの代名詞となっている。北のヒズボラ、南のハマスと南北から撃ち込まれるロケット弾に頭を悩ましていたイスラエルは対ロケット弾用の防空システムの開発に着手。ラファエル社によって2007年に開発され、2011年に配備が始まった。当初の迎撃率は70％代だったが、実戦経験を経る事に改良、その精度は向上し、現在配備中のシステムは90％前後の迎撃率を誇る。レーダー1基につき、ミサイルランチャーは最大4基まで配置可能で、ランチャーは20連装になる。つまりアイアンドーム1セットに付き最大80発のミサイルが配備されており、飽和攻撃にも対処できる。使用されているタミルミサイルの射程は4kmから最大70kmになり、防御範囲は約155平方km。アイアンドームは最終防衛網として確実に脅威を排除するために飛翔体1発に対し2発のタミルを発射する。つまり、80発のミサイルがあっても迎撃できるのは、その半分の40発という計算になる。
レイセオンと戦略国際問題研究所 によると、イスラエル全土に10基のアイアンドームが設置されているとされる。つまり、常時最大800発の防空ミサイルがイスラエルの地をロケット弾から護っている計算になる。再装填には1時間かかるとされる。アイアンドームに弾道ミサイルの迎撃能力はない。
