最後はわずか8日間の戦闘で14年間続いた内戦は終結。シリアのアサド政権は崩壊した。なぜ、これだけ物事が早く動いたのか。その理由にシリア政府軍が反政府勢力の進攻にほとんど抵抗しなかった事がある。なぜ?彼らはアサドの為に戦わなかったのか。その理由が明らかになってきた。
11月27日に始まったシリア反政府組織による大規模攻勢、12月8日にアサド元大統領が国外に逃亡した事で政権は崩壊。半世紀続いたアサド政権と14年間も続いていたシリア内戦は僅か8日間の戦闘で終了した。ただ、攻勢といっても反政府勢力はほとんど戦闘することなく首都ダマスカスに到達しており、アサド政権を守るべきシリア政府軍は抵抗することなく、首都までの道を明け渡した。それはなぜなのか。
腐敗と士気低下
もともとシリア軍は正規軍と民兵を集めた混成部隊でまとまった軍では無かった。シリアは長年、人口の1割しかいないシーア派の一派であるアラウィー派が支配層として政府や軍、警察の役職を担い、利権を得ていた。軍の実力者は自分の利権を守るため、軍を私物化、民兵部隊を組織。麻薬密輸や人身売買など犯罪に手を染め、恐怖で支配した。しかし、そんな軍が統制がとれている訳がなく、軍内部は腐敗が横行。上層部が利権を貪る中、中間将校の多くは内戦における犠牲や戦果が給与や労働条件、待遇の改善に反映されていないことに怒りを募らせていたとされる。食料などは中抜きされ、徴兵された兵士には満足な食料も供給されなかった。また、兵役逃れの為の賄賂も横行しており、基準を満たす人員も揃っていなかった。
反政府勢力による大規模攻勢が始まった翌日の11月28日、陸軍総司令部は全軍に完全な戦闘態勢をとるよう命令する電報を発した。しかし、多くの兵はこの命令に従わず、持ち場を離れ、逃亡する者が後を絶たなくなる。12月5日水曜に政府は兵士の給与を50%引き揚げると発表したが、時すでに遅く、徴兵された兵の多くは軍を離反した。徴収兵の給与は月額40ドルだったとされ、50%アップしても80ドル。アップしてようやくシリアの平均月収に並ぶ形だ。
指揮を担っていなたのはロシアとイラン
シリア軍の腐敗は何も今に始まった事ではなく、内戦前から横行していた。統制がとれていないシリア軍は、2011年の内戦ぼっ発時、反政府勢と力イスラム国に押しに押され、アサド政権の支配地域は17%まで削減した。また、自国民に銃を向けた事に反発して、当時のシリア軍の半数に匹敵する15万人が軍を離反して反政府側についた。完全に劣勢だったアサド政権に手を差し伸べたのがロシアとイランになる。ロシアは軍事支援する条件として、統制が全くとれていなかったシリア軍に対し、ロシア軍と協力できる単一化した司令部を持つ軍の創設を求める。そして、2015年にロシアの支援を受けて創設されたのが陸軍の「第4軍団」と「第5軍団」になる。
イランはシリアを支援するためにイスラム革命防衛隊とレバノンのヒズボラの軍事顧問と戦闘員を派遣した。その他、イランが支援するイラクの民兵組織や、アフガニスタンのシーア派戦闘員からイランが結成した別のグループも派遣された。彼らは未熟なシリア兵を訓練し、行動を共にした。しかし、統制がとれておらず、士気が低いシリア兵を信頼していなかったとされている。とはいえ、ロシアとイランの支援を受けた事で、シリア軍は統制がとれ、徐々に攻勢を強め、2016年には完全に形勢逆転する。アサド政権は国土の3分の2を制圧。2020年3月にはロシアとトルコがシリア国内での停戦に合意。アサド政権の勝利は確実と言われた。
しかし、2023年10月7日、パレスチナ・ハマスがイスラエルを攻撃した事から、事態は徐々に変化する。ハマスとイスラエルの戦闘はハマスを支援するイランやヒズボラにも飛び火。イスラエルはシリア国内のイラン関係の拠点への空爆、さらにレバノンにも侵攻した。イランはイスラエルの標的になる事を懸念し、シリア国内から駐留する将校を引き揚げ始める。ヒズボラもレバノン国内での戦闘が激化した事で2024年10月に戦闘員をシリアから引き揚げさせた。イラク民兵は反政府組織の大規模攻撃が始まった際、イランの軍事顧問との連絡は全て遮断されていたと述べており、12月5日に中部ハマー市が陥落した際、イラク民兵も撤退した。シリア軍は作戦指揮をイラン、ヒズボラに頼っていたと、アラウィ派のシリア軍大佐が語っており、イランの軍事顧問やヒズボラなしでは、軍は領土を維持できなかったと語っている。ロシア軍もウクライナとの戦争で疲弊。アサド元大統領は側近に逃亡直前までロシアが援軍を送ってくれると述べたいたらしいが、結局来ることはなかった。
シリア軍は完全にロシア、イランといった同盟国に依存した状態であり、以前のような支援を両国からうけれなくなったシリア軍は軍として機能不全に。結果、反政府勢力に組織だった抵抗することなく、敗れることになった。
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3.2. The Government of Syria and associated armed groups
Demoralized and abandoned by allies: Why Syria’s army didn’t fight for Assad